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3.拉致(6)

「もう一度だけ言う。キーを持って、ここへ来るのよ。女だって人は殺せる」
冷たく言って、右手に下げたレミントンの銃口を女に向けた。
「待って、殺さないで。服を着させて、それに水の中は冷たそうでいや」
とんまなことを平気で言った女を睨んで、チハルは立ち撃ちの姿勢で銃を構えた。電撃を受けたように女が立ち上がる。小柄だが、肉付きのいい豊満な裸身だ。

「お願い、撃たないで。私は博子。殺さないで。言うとおりにするわ」
震える声で言った女が渓流に下り、水を蹴立てて近寄ってくる。上を向いた豊かな乳房が大きく揺れた。薄い陰毛の間に大振りの性器が見える。歳は二十歳くらいだ。真っ先に名乗った事実が、チハルに世慣れた印象を与えた。他人につけ込むことが上手な証拠だ。

「まず、恋人の死体を見るの。望むならすぐ後を追わせてあげる。さあ、ちゃんと見るんだ」
厳しい声で言って博子の顔に狙いを付けた。蒼白な顔が醜く歪み、泣き顔になって嫌々をした。チハルは首を振って引き金に指先を当てた。
「見るんだ」
大声で命じると、博子は泣き声を上げて死体を見た。一瞬凍り付いたように裸身がこわばる。続けて全身でしゃくり上げて吐いた。吐瀉物が尽きても博子は吐き続けた。
「もういい。顔を洗って車に乗りな」
しばらくしてからチハルが命じた。博子は言われるままに流水で顔を洗い、おとなしく助手席に座った。絶対的な暴力は常に人を従順にさせる。チハルはボギーの屋敷に押し入った二人組に蹂躙された自分を思い出す。キュッと股間が疼くのが分かった。

「言うとおりにすれば悪いようにしない」
ゲレンデヴァーゲンを対岸に乗り入れ、林道に上がる坂を越える途中でチハルが言った。
「でも、きっと殺されるわ」
力のない声で博子が答えた。
「そうだとしても、死ぬまでは生きていられる」
意味をなさないチハルの言葉が博子に希望を与えた。今にも警察のヘリコプターが頭上に現れるような、妄想と言った方がよい期待が博子の脳裏に渦巻く。生きたいと思った。

チハルはゲレンデヴァーゲンをパジェロの後ろに止めた。博子を促して一緒にパジェロに乗り込む。狭い待避場でハンドルを三回切り替えして方向を変え、再び渓流に戻っていった。博子の話によれば、射殺した外国人は市の工学部に在籍する留学生だった。だが驚いたことに、博子は国籍すら知らなかった。父の経営するレストランでウエートレスとして働く博子が、男の膝に水をこぼしたのが付き合うきっかけだと言った。外国人のセックスに関心があっただけで、それも今日で二度目に過ぎないと他愛なく言う。パジェロは博子が父に買ってもらったもので、忍山沢へは登山好きの男が案内したと答えた。すべてがチハルに好都合だった。二人の失踪と山地を結びつける線はない。死体とパジェロを始末すれば、すべての痕跡が博子を残すだけで消えるのだ。

「さあ、仕事よ。殺されたくなかったら、死体と違うところを見せるんだね。嫌ならすぐ殺してやる」
渓流に乗り入れたパジェロを止めて、チハルが低い声で博子に呼び掛けた。博子の裸身がすくみ上がる。助手席のドアを開けて降りるのを確認してから、チハルも水面の上に降り立った。車体の後部に回ってリアゲートを全開にする。貨物室の中には驚くほど何もない。置き傘と運動靴、二冊の読み捨ての雑誌が荷物のすべてだった。アウトドアの必需品など何一つ無い。若い女が四輪駆動車を乗り回しても意味がないことを荷物室が証明していた。だがそれも、今の場合はありがたい。遠ざかって見つめている博子を尻目に、チハルは腰のベルトに吊った大型のハンティングナイフを抜いて死体の横に屈み込んだ。二つに撃ち砕かれた胴体からは、いまだに出血が続いていたが、それももう僅かだった。ぐしゃぐしゃになった腹から流れ出た内蔵を根元からナイフで切断する。鋭利な刃先が動いて日に輝く度に、断ち切られた内蔵が流れ去っていく。汚物の臭気が鼻孔を襲った。その汚物も内蔵もすべて、山根川に合流する前に冬を迎える魚たちの餌になるのだ。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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