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3.拉致(3)

「ムッー」
声にならないうめき声がチハルの口を突いた。ボギーが腰を使う度に、低く長い喘ぎが風に流されていった。二人が同時に官能の極まりに達した瞬間、エンジン音が響き渡った。反射的に前方を見ると、閉まっているはずの表門に続く百五十メートルのアプローチを、ヘッドライトを上向きにした車が突進してくる。凄いスピードで光は接近し、プール脇に駐車したボギーのロードスターに迫った。

ズガガッーン

耳をつんざく衝撃音が響き渡り、目前にあった赤いロードスターの上に黒いハーフトラックが乗り上げた。金属と金属がぶつかり合って真っ赤な火花が飛んだ。圧倒的な暴力を見つめるボギーの裸身がブルッと震えた。素早く身体を離し、後ろを振り返った。チハルも視線を巡らしてテーブルに置いたセキュリティーセットの端末を見る。グリーンのライトが点滅していた。屋敷の警報が解除されているのだ。チハルが訪れたときに開けられた門がそのままになっているはずだ。ボギーが小さく舌打ちをして立ち上がり、セキュリティーセットのスイッチを入れてキーボードを叩いた。赤いランプが点灯し、やっと屋敷が警戒態勢になった。しかし、もう遅すぎる。侵入者は目と鼻の先にいるのだ。素っ裸のチハルの背を恐怖が掠めた。思わず周囲を見回して武器を捜す。だが、無駄なことだった。武器を嫌悪するボギーは銃を持っていない。もはや侵入者の善意を期待するしかなかった。

「お楽しみの所を邪魔したようだな。でも、素っ裸でも信用は出来ねえ。二人とも両手を上げてプールの前に並ぶんだ」
嘲る声が響き渡り、二人の男がプールサイドに上がってきた。前を歩く男が右手に銀色に光る拳銃を握っている。強力な357マグナム弾を発射する、コルトパイソンの撃鉄は上がっている。銃口がボギーとチハルの顔を交互に狙った。チハルの膝が情けなく震える。
「よしっ、二人ともおとなしく両手を背中に回せ」
銃を持った大男が命じると、横に並んだ貧相な男が腰に吊した針金の束を外した。二人とも若い黒人だった。好色そうに裸身を見る目に、チハルは見覚えがあった。とっさに顔に出そうになる反応を必死に押し止め、正面を向いたまま両手を後ろに回した。確かに、ボギーの屋敷に来る寸前にダウンタウンで見た顔だと確信する。二人はいかがわしいバーの前の階段に座り、歩道を通り過ぎるチハルをじっと見つめていた。おいしいと評判の日本人の青年の店で、ボギーに食べさせようと餃子を買った帰りだった。日本人仲間の情報がなければ、チハルも足を踏み入れないような場所だった。恐らく、二人の侵入者はずっとチハルを尾行してきたに違いなかった。悔しさで奥歯を噛みしめたが、セキュリティセットが作動していなかったのでは仕方がない。彼らは開いていた門を通ってから、植栽の陰で日が暮れるのを待っていたに違いなかった。

チハルの背後に回った貧相な男が、高く盛り上がった尻を撫でた。おぞましさに身震いすると、すかさず両手首を針金で縛り上げられた。肌に食い込む針金の痛みに耐えきれず、ひきつった口から悲鳴が漏れる。
「チハルに乱暴をするな。今ならば許そう、早く帰れ」
ボギーの凛とした声が響いた。思わず横を見る。後ろ手に縛られた黒い裸身が首筋を正して胸を張っている。しなやかで美しい姿だった。
「ふん、萎びきったペニスを晒して威張るんじゃない。黙って金を出せば引き上げる。金を出さなければその場で殺す。俺たちのやり方はシンプルなんだ」
鼻の先で笑って言って、大男が銃口の先で垂れ下がったペニスの先をなぶった。ボギーの股間で長いペニスが揺れる。表情が屈辱で歪む。

「僕たちは素っ裸だ。財布を身に着けてないことは子供でも分かる。それに、母屋に行っても無駄だ。警報スイッチを入れてある。警備員が来ない限り、僕でも入れない。数分後には警備員が来る。無理に侵入すれば三分間で警察が飛んで来る。早く帰った方がいい」
震える声で、ボギーが吐き捨てるように言った。声に促された大男がテーブルで点滅するセキュリティセットの赤いランプを怖い目で睨んだ。憎々しげに唾を吐き捨ててから、一歩前に踏み出す。
「どうしても死にたいってわけか」
ボギーのこめかみに銃口を当て、低い声で威嚇した。冷たい鉄の感触が素肌を通して死を伝える。今更ながら激烈な恐怖が、ボギーの足元から胸元まで這い上がってきた。
「待てっ、待ってくれ。金はある。君たちが壊したロードスターの中に百ドルほど有ったはずだ。捜してみてくれ」
ボギーが言い終わらないうちに大男が銃口で頬を打った。暴発する恐怖がチハルの全身を満たし、とっさに目をつむった。だが、銃声は鳴らなかった。ボギーの長身が揺らぎ、口元から血が流れた。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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