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4 看護人の手腕(3)

ママとチーフが降り立った病院の二階は、がらんとしていた。数少ない入院患者は皆、三階の病棟に収容されている。二階は、もう滅多に使われなくなった手術室が中心になっていた。かつて優秀な胸部外科を誇った病院も、今は専門医を招聘しての手術以外はしなくなっていたのだ。
冷え冷えとした空気が漂う広い廊下に、ママの足音とチーフの松葉杖の音が響く。閉じられた手術室の白いドアに、常夜灯の光が侘びしく反射している。寒々とした光景だった。
二人ともドアの前で肩をすくめた。襟元に冷たい風が飛び込んできたような気がしたのだ。しかし、背後からやってきたのは、くぐもった呻き声だった。

背筋を冷たい予感が掠め、振り返ると、廊下の奥の北側のドアから明かりが漏れている。その明かりと共に、なんとも捉えがたい呻き声が、はっきりと響いてくる。悲鳴のような、喘ぎのような、押し殺した声に誘われ、二人は廊下の奥へ歩いて行った。
廊下の北側で細く開いていたドアは、病室のドアらしかった。患者の名前を書いたラベルがはられ、ノブには面会謝絶の札が下がっている。
細く開いたドアの隙間から、しきりに呻き声が聞こえる。高く低く、打ち寄せる波のように続く規則的な音には、微かに官能を刺激する淫らさが混じっていた。しかし、時折耳を打つ押し殺した悲鳴は、明らかに苦痛を訴えている。
二人は恐る恐るドアに近付き、ママがそっと中を覗き込んだ。
「アッ」と、声を呑み込んだママの目が、大きく見開かれる。

ママの視線の先に見慣れた病院のベッドがあった。ベッドの両側には低い柵が上げられていた。
ベッドに横たわる、げっそりと痩せた男の両手は左右に広げられ、柵の金属パイプに白い包帯で縛り付けてある。
男は素っ裸だった。貧相な股間でペニスが勃起している。
肋骨の浮いた裸の胸に女の豊満な裸身が被さり、屹立したペニスを口に含んでいた。グラマラスな裸体で、頭に被ったナース帽が異様だった。
ペニスを口に含んだナースが、顔を上下する度に、男の口から喘ぎ声が漏れる。口にはやはり、白の包帯で猿轡が噛まされている。猿轡から洩れるくぐもった喘ぎが、呻き声のように押し殺されて、室内に溢れた。

「ヒッー」
突然、恐ろしい悲鳴が猿轡の中から飛び出し、男の痩せた裸身が跳ね上がった。
口でくわえたペニスを放し、ナースが跳ね上げる足を抱え込んだ。尻を落として痩せこけた上半身を押さえようとした瞬間、左手を柵に縛り付けた包帯が切れた。苦痛に泣き叫ぶ悲鳴を上げながら、凶暴に暴れ回る裸身が、自由になった左腕を反動に使って、一際大きくベットで跳ねた。痩せこけた身体からは信じられないほどの力で、男の上半身が不自然なほど真横に捻れ、ナースの太股を押し退けてベットの外に落ちた。

バキッという、耳障りな音が薄気味悪く室内に響き、かん高い悲鳴が男の猿轡を突いた。
縛られたままの左手首が捻れ、上半身すべての体重を支えたのだ。たとえ痩せ細った身体でも、手首だけで支えきることは出来ない。男の体重が、自分の左手首の骨をへし折ったのだ。
ナースが枕元の非常ベルを押した。あまりの凄まじさにドアを開け、室内になだれ込んでいたママとチーフが、目を丸くしてナースの裸身を見つめた。

上半身をベッドの外に投げ出したまま気絶した男の裸身を、床に降りたナースがそっとベッドに戻す。駆け寄ったママがナースに手を貸した。ベッドに真っ直ぐ横臥した裸身を優しくナースが撫でる。萎みきってしまったペニスを左手で握り、細い導尿管を亀頭の先から挿入した。

「この人も、やっと眠れる」
ナースの疲れ切った声が、凄惨な部屋の中で優しく耳に響いた。素っ裸の豊かな胸と腰が、患者を思いやるナースの気持ちを象徴しているようだ。

「びっくりしたでしょう。この患者さんはまだ三十五歳よ。肺ガンの末期なの。もう、全身にガンが転移してしまって治療の手だてがない。迫り来る死を、激烈な痛みの中で待つしかないの。あまりの苦痛に眠ることもできない。やっと、手首の骨を折った痛みが、ガンの苦痛に勝って失神することができた。残酷なことよね」
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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