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- 2011/04/24/Sun 15:20
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- 第4章 -卒業-
大きくドアを開けて、外の熱気と共にMが入って来る。颯爽とした態度に頭が下がるが、ほんの少しのデリカシーに欠けると祐子は思う。だって私は裸なのだから、ドアは細目に開けて欲しい。もう、小学生ではないのだ。
そんな祐子の気持ちにはお構いなく、Mは勝手にリビングに通り、広いテーブルの前のソファーに座った。
「祐子も座りなさい。ちょっと話があるの」
素っ裸のままソファーの横に立った祐子に、Mが前の椅子を勧める。ここは私の家だと思い、ちょっと臍が曲がった。
「こんな格好でMに失礼だから、服を着ます」
「いいの。そのままでいて。もし裸が恥ずかしいのなら、私も脱ぐわ」
もう、抗う術はなかった。Mの前に、股間に両手を置いて浅く座った祐子の裸身を、じっとMが見つめる。
「祐子、昨夜付けていた素敵なネックチェーンはどうしたの」
思わず右手を首にやった祐子の負けだった。いつ取れたのか記憶もない。初めて付けたチェーンだったので、無くなっても違和感がなかったのだ。
「これでしょう。変わったチェーンだと思ったから、すぐ祐子のだと分かったわ。ストッパーが外れやすいのね」
Mが差し出したチェーンは、確かに祐子の物だった。
「ありがとう。Mの会社で落としたのね」
「いいえ。バイクの家の庭の植え込みに引っかかっていたわ」
見る間に祐子の裸身が赤く染まった。失語症になったように言葉が出ない。バイクの前で裸身を晒したとき、胸元で揺れていたネックチェーンの感触を思い出した。抗弁できることは、無くなっていた。今更しらは切れない。目の前に証拠があるのだ。
「私がマンションの前まで送った後、祐子はバイクの家に行ったのね」
Mが静かに言葉を続けた。恐ろしかった。受け取ったチェーンを握って股間に置いた手が、微かに震えるのが分かる。
「まさか、庭まで行って帰って来たとは言わないでしょうね」
下を向いたまま祐子は小さく頷く。陰毛の剃り跡が惨めに見えた。
「そう、それじゃあ聞かせて。両手首と乳房に出来た縄の痕のことも聞かせて欲しいの」
見下ろした両手首に、確かに赤い縄目の跡が残っていた。バイクにあれほど厳しく緊縛されたのだ。見ることはできないが、乳房の上にも当然縄目の跡が残っているに違いない。
急に目から涙がこぼれた。警察官に曳かれて行ったバイクの、悲しそうな視線が頭をよぎる。祐子は号泣した。泣き続けながら途切れ途切れに、昨夜のことをすべて話した。
話し終わったとき、涙が止んだ。止むというより、涸れたといった方がよかった。洗いざらい話しきった後の爽快感が、鈍い痛みと共に下半身全体を被い、全身に伝わっていく。私は変わったはずなんだと、その時思った。バイクも一緒に変わった。下半身に残る痛みが二人の旅立ちの証だった。
祐子は股間に置いた手を上げ、金のネックチェーンを再び首に飾った。
両手を昨夜のように後ろ手にして胸を張った。突き出た乳首がキュッと固くなる。股間に力を込めると、陰毛の剃り跡が太股を鋭く刺した。小さな勇気が湧いてきた。勇気はバイクと祐子の二人のものだ。今更、有ったことを無かったことにはできない。
祐子は泣き腫らした赤い目で、正面からじっとMの目を見つめた。
Mの瞳の奥に、悲しみが宿ったと思った。
「私は後悔していない」
はっきりと、Mの瞳に言った。
Mの肩が落ちるのが分かった。
「そう。バイクは警察に調書を作りに行ったわ。警視官は犯罪は無かったと断定した。後は連絡が遅れたことを申し開きするだけ。バイクは身障者だし、ピアニストが付き添って行ったから問題はないわ」
Mは淡々と取材したことを話した。死後二週間の間、放置されていた老婆のことは記事に出来ない。地域の新聞は、猟奇を追う週刊誌とは違う。