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6 祐子の見聞録(3)

雷雨の上がった歓楽街の端で、赤と黒を斜めに染め分けたサロン・ペインの看板灯は、今夜も灯が入っていなかった。祐子は構わずドアを開き、電話室から店内に通った。
胸を張ってカウンターの前に立つ。
プレスの効いた白の半袖シャツを着たチーフが、カウンターの中から訝しそうな目で祐子を見た。

「いらっしゃい、お嬢さん。喫茶店と間違えてしまったのかしら」
「さっき電話で、伺う約束をしてあります」
着替えてきたばかりの白のタンクトップの胸を張って答えた。父にミラノで買ってもらった金のネックチェーンが、首で揺れた。
「そう、ママのお客なのね。ママはもうすぐ降りてくるはずだから、スツールに掛けて待ってね。ミルクでもお出しするわ」
意地悪い笑みを浮かべたチーフが、目でスツールを示した。
「飲み物は要りません」
ミルクという言葉に赤くなった頬を意識して、顔を伏せたまま長い足を折ってスツールに座った。白い麻のパンツが、気持ちの良い衣擦れの音を立てた。剃り上げたばかりの股間にヒリッと刺激を感じた。

祐子はチーフの客あしらいに負けまいと、背筋を伸ばし、真っ直ぐ顔を上げた。チーフの首筋の赤いスカーフが目に入った。思い切って視線を上げ、冷たい視線をしっかりと受け止める。

「私はどうも、お嬢さんというものが好きになれないのよ。あなたも、場違いな感じがするでしょう」
「お嬢さん育ちは私の責任ではないし、場違いな感じもしません」
チーフの目を見つめたまま、股間に力を入れて答えた。ショーツを穿いていない股間がまた、太股に触れてヒリヒリとする。しっかり応じられたと思った。
「元気なお嬢さんね。そんなに片意地張っていると、喉が渇くし、股の間も乾ききってしまうわ」
チーフの目が光った。怪しい目の輝きが、素っ裸で天井から吊されていた若い女の目を思い出させた。

あの夜、感に堪えて「バイクッ」と呼び掛けたとき、後ろ手に縛られて股間を大きく広げられていた女が、顔を上げて祐子を見た。その時の、場違いに覚めた視線が目の前のチーフの目と重なる。祐子はハッとして目を伏せてから直ぐ、視線を戻した。
目の前のチーフの美しい顔が大きくうなずく。吊り下げられた照明を浴びて、赤いゲランのルージュが短い軌跡を描いた。
「バイクが来た日に飛び込んで来たお嬢さんね。Mに、お仕置きされて改心したんじゃなかったの。子供の来るところではないわ」
祐子が顔を真っ赤にして下を向いてしまったとき、後ろから掠れた声が聞こえてきた。

「待たせてごめんなさいね。チーフの悪口は気にしないで。彼女は生理中なの」「チッ」と、チーフが小さく舌打ちする。
目の前の鏡の中で、スキンヘッドの頭を輝かせた大柄な女性が近付いて来る。電話の女性と同じ声だった。

「いらっしゃいお嬢さん。バイクの友達だから、祐子と呼ばせてもらっていいわね」
大きな尻で隣のスツールに座ったママが椅子を回し、祐子の横顔に言った。慌ててスツールを回した祐子が、うなずきながら「初めまして」と答える。
「いいえ、この店の者は皆、祐子に会うのは二回目よ。もっとも、あなたはバイクの姿しか覚えていないかも知れないけれど」
素っ裸で横たわったバイクの姿が目に浮かび、祐子の頬がまた赤く染まった。
「この店に来て赤くならなくていいのよ。祐子が赤くなってしまったら、素っ裸のまま股を開いて吊り下げられていたチーフが、穴に入りたくなってしまうわ」
横を向いたチーフの頬にさっと朱がさして、消えた。黙ったままママにコニャックのグラスを差し出す。

「祐子にも飲み物を出しなさい」
「ミルクしかないわ」
「意地悪は止しなさいチーフ。ジンジャエールを出して。いいわね」
チーフをたしなめてから、祐子の目を見て言った。
祐子が小さくうなずくと、ゆっくり話し始める。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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