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5 初舞台に上がれ(1)

赤と黒を斜めに染め分けたサロン・ペインの看板灯が消されてからも、祐子はしばらく路上に佇んでいた。
天田に押されたバイクの車椅子の後を、まるで探偵のように尾行してここまで来てしまった。始めての尾行にしては気付かれることもなく、歓楽街まで追って来れたが、先の手段が浮かばなかった。二人は、サロン・ペインのドアの中に消えてしまったのだ。

ドアを開けて入って行こうかとも思ったが、どうも気が進まない。
看板灯の横のスペースに駐車してある、オープンにしたMG・Fが気になってしまう。Mの車に違いなかった。
飲み屋にまで男を追って来たと、Mに思われるのが嫌だった。Mならば、そんな思惑など気にせず、自分のしたいようにするだろうと思うと、なおさら勇気が挫ける。しかし、このまま尻尾を巻いて帰りたくはなかった。

思案し続ける祐子の目に、オープンにしたMG・Fが車内に誘い掛けているように映った。誘われるままに、窓の上がったドアに手を掛ける。暗い車内で赤く点滅している、パイロットランプが目に付いた。ドアがロックされ、盗難防止のセキュリティー・スイッチが、オンになっているに違いなかった。

こんな場所で非常ベルを鳴らし、自動車泥棒の現行犯として酔客に取り囲まれるわけにはいかない。仕方なく車体の後ろに回り、ミドシップに置かれたエンジンカバーの上をよじ登って助手席に入る。
黒い幌を持ち上げて前に倒し、留め金を掛けた。
湿った外気が遮断され、身体の温もりが実感できる。狭い車内が祐子に、リラックスした落ち着きを取り戻させた。

なぜ、こんなにバイクのことが気に掛かるのだろうかと、ふと思った。
きっと、バイクは自分に似ているからだと答えが浮かぶ。
最近の自分自身の姿が目の前をよぎって行く。変わりたくとも変われない。それなのに、少しずつ変わって行ってしまう自分がいる。自分を取り囲む環境に強いられ、気付かぬ内に変わって行く自分が堪えられない。変わってしまった自分が腹立たしいまでに情けなく、苛立つ。そんな時間がもう、何年も続いているような気がする。まるで、蟻地獄に落ちた姿を見るようだった。

バイクも同じだと思う。いや、身体が変わってしまったバイクの方が、より一層やるせないと思う。やり切れないはずだった。望んだこともない変化を強いられ、抗ったまま、流れる時にじっと身を晒している。
なぜバイクも私も、自ら進んで変化を求められないのか。新しい自分に生まれ変わる機会は毎日のようにある。その機会をいつも後回しにして、苛立ちながら二人とも流されて行くのだ。しかし、もう懲り懲りだった。

漠然とした未来への不安を理由に、このまま腐っていくわけにはいかない。未来のことより明日のことだ。そして、明日のことは分からないのだから、今日という日を、今度こそ大切にしたかった。
祐子自身のためにも、バイクに変わって欲しいと願った。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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