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5 初舞台に上がれ(8)

声にならぬ自分の叫びの代わりに、遠くではっきり、小さな声が聞こえた。
「バイクッ」

階段を上りきってそっとドアを開いた祐子の目に、明るい舞台が飛び込んで来た。舞台の上では、三人の裸体がもつれ合っている。後ろ手に縛られたまま天井から吊り降ろされた女の、無惨に押し開かれた股間を舌で追う裸の男は、一目でバイクと分かった。
あまりの驚愕に、叫びそうになったが、声を押し殺し、一心にバイクを見た。目を被いたくなる淫らな場面にも関わらず、バイクの真剣な気迫が伝わってくる。全身に吹き出した汗が、美しく照明に光っていた。

醜いほどに押し広げられた女の股間を、一心不乱にバイクの舌が追う。艶めかしい女の喘ぎと、狂おしいバイクの呻きが、まるで二重唱のように耳に響いた。ああ、バイクは今、変わろうとしているのだと思った。
思った瞬間、涙が頬を伝い、凄惨な情景に美しい靄が掛かった。その時、無意識にバイクを呼ぶ声が、口をついた。
固く瞑っていたバイクの目が、靄の掛かった視界で大きく開かれたのが分かった。「ユウコッ」と応える声も確かに聞こえた。


「祐子」
三メートル前に立ち尽くす祐子に呼び掛けて、Mはビールの載ったトレーを床に投げ捨てて立ち上がった。
大股で祐子の横まで行き、右手をつかんだ。
「祐子、何しに来たの。あなたの来るところではないわ」
「バイクを追って来たのよ。ほら、あんなに真剣なバイクは初めて見た。きっと、バイクは変わることができる」
Mは、興奮して言いつのる祐子の右手を強く振った。

「バイクとあなたがどんな関係にあるか知らないけど、他人のプライバシーにそんなに関わっては駄目。冷静になりなさい。あなたは中学生よ」
中学生の一言を聞いた祐子が、全身を固くしてMの顔を見上げた。
「Mに歳のことを言われるとは思わなかった」
とっさの言葉に詰まったMが、ゆっくりと続けた。
「祐子と議論をする気はないわ。私は大人のすることをするだけよ。さあ、帰りましょう。送っていくわ」
「私は帰らない。バイクを応援する」
祐子の言葉を最後まで聞かず、Mは平手で祐子の頬を打った。強引に祐子の右手を引いて、左手でドアを開けた。仕方なく従った祐子の背を「祐子待ってくれ。もう少しなんだ」という、バイクの悲壮な叫びが打った。
祐子の足が止まったが、Mは構わず強引に階段を下った。


祐子の声と姿がバイクの下半身に秩序を与えた。ペニスの存在がおぼろげに認識できた。後はこの道筋を一心に突き進めばいいとバイクは思った。死と道ずれになった性の開放も近い。歓喜の声を祐子に聞かせたいと思った。
しかし、視界の隅から祐子が去り、ドアが閉じられた。
少し遅れて、恥ずかしさがバイクの覚めた頭に宿った。無様な姿を祐子に見られたのだ。捨てたはずのプライドと羞恥心がブーメランのように戻って来た。

茶番だとさえ思う。
死も性も宙ぶらりんのまま、見えない振りをしておけば良かったと思った。
混乱していくバイクの思念の中で、ただ一つ、ぼんやりとしたペニスの感覚だけが、今夜の事実として残った。
今さら後戻りなど、できはしない。
大きく裂けた意識の中で、ぽつりと点った官能の火が、逃げて行くバイクに追いすがっていった。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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