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6 祐子の見聞録(4)

「祐子にどれだけ理解できるか分からないけど、大人の話し方で話すわね。いい。性の話よ、聞きたくなかったら帰ったほうがいいわ。この前はMに助けられたようだけど、今夜は自分で決めるしかないわ」
「聞かせてください。あの時も、私は残りたかったんです。ショックは受けたけど、バイクの真剣な態度に感激したんです」
はっきり祐子が答えるとママは前を向き、鏡に映った祐子の目を見てにっこりと笑い、先を続けた。
「バイクは五年前のオートバイ事故で、性的不能になってしまったの。思いを寄せていた少女はその時死んでしまった。死から見放されたバイクは、性の不能を抱いて生き残ってしまった。その時から、死への希望と官能を求める欲望の、失われてしまった二つの道がバイクを責め苛むことになったの」
「でも、生きていくバイクは、変わっていけたはずよ」
救いのないバイクの姿に耐えかねて、祐子が口を挟んだ。
「そう、生きていこうと決意すれば変われたかも知れない。現実に、変わろうとして苛立ち、苦悩したかも知れない。でもね、失われた道を求めるバイクに、一切を諦めきれるはずがないの。だから祐子と出会い、祐子の中に自分の過去のすべてを投影して、記憶の中に閉じこもったまま過ごすことを選んだのよ」
「いいえ、私といるときは現実を見ていたように思う」
「祐子は何が現実だと思うの。あなたとバイクが二人きりでいるときのこと。それはやはり、お話の中の出来事よ。だからあの夜、バイクは性能力の回復にあれほどの努力をした。あの夜のバイクは、初めて現実と向かい合ったの。きっと、祐子が来たときには、ペニスが勃起しそうな感触を味わっていたはずよ」
無様に広げた股間を晒し、萎びきったペニスをナースの口にくわえさせていた陰惨な光景が瞼に浮かぶ。

「なぜ、勃起できなければ変われないのかしら」
口に出してから、祐子の頬が真っ赤に染まる。
「決まってるじゃあないの。勃起した物を、祐子の股間に突っ込めるからよ。ただの茶番だとは思うけどね」
カウンターの中から、冷たくチーフが口を挟んだ。
「黙りなさいチーフ、だから何だというの、自分の仕事でしょう。ねえ、祐子。バイクは性を取り戻すことで、祐子と対等になれると思っているの。今でも対等だと、あなたがどう言いつくろおうと駄目。これは、バイクの心の中の出来事なの。そして、勃起できそうになったことは事実よ」
祐子は下を向いたまま、あれこれと考えを巡らせようとした。しかし、明るい舞台の上で繰り広げられていた陰惨な光景と「待ってくれ。もう少しなんだ」という、バイクの悲痛な呼び掛けしか浮かんでこなかった。

「分かったわ。それでバイクはどうなったの」
「とんだ根性無しよ」
またチーフが口を挟んだ。今度はママも止めようとしない。構わず話を続けた。
「ピアニストと天田さんが、毎週末にクラブ・ペインクリニックに通えるように手配したの。もう少しで勃起できるかも知れないと確信したからよ。二階のクラブは性の治療室と思ってくれていいわ」
言葉を切って、ママはグラスのコニャックを舐めた。祐子もジンジャエールのグラスに口を付けた。

「結論から言うと、治療の効果が思ったように表れてこない。祐子に見られたことが、負担になってしまっているらしいの。きっと、大好きなあなたに見られたことが、恥ずかしくてたまらなくなったのよ。人一倍欲望が強いし、希望も見えかかっていたから暫く通って来たわ。でも、いつも、もう少しというところで、」
「私の肛門を舐めながら泣き出すのよ。祐子許してくれ、なんて言って泣くんだから呆れる。最低な奴ね。生き残ったのも無理ないかも知れないわ」
チーフが吐き捨てるように言った。

「今日で二週間も来ないわ。天田さんが捜しに行っても居留守を使っているらしい。何とかしたいと思って、祐子に電話をしたわけ。あなたの協力がないと、バイクは元に戻ってしまうわ。せっかく生きる気力が湧いてきたのに、残念でならないのよ」
「協力します」
頬を伝う涙に霞む目でママの目を見て、反射的に祐子が言った。
「ヘー、お嬢さんが素っ裸になって、バイクに股間を縛らせてやるのかしら。あんなに縄が好きな奴も珍しいのよ」
何ほどのことがあると思い、祐子は顔を上げてチーフの目を見据えた。
「怖い顔で私を見ないでよ。バイクが欲望が強いのは事実だけれど、勝手にそれに乗って遊ぶ必要はないってことが言いたいの。もっと自分を大切にした方がいいわ。お嬢さんは処女なんでしょう」
処女という不毛な言葉が、祐子の耳に突き刺さった。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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