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6 祐子の見聞録(1)

無為な時が二か月もの間、祐子のカレンダーの上を撫でていった。
埃の溜まった時を洗い流すように、今日も驟雨が襲う。
窓ガラスに絶え間なく風雨が吹きつけ、断続的に閃光が煌めく。時折、落雷する轟音が耳をつんざいていった。

祐子はベッドから立って行って、アンプのボリュームを上げた。グレツキの悲歌のシンフォニーが、やっと悲しい調べを主張しだした。ついでにディスプレーの時計に目をやる。まだ六時三十分だ。雷雲で真っ暗になった窓の外が、時間の感覚まで奪っていく。

特に感慨もないまま、中途半端に九回目の夏休みが終わる予感がした。
両親に無理やり誘われて行った、初めてのヨーロッパ旅行も、空しかった。
ベルリン、ケルン、ブリュッセル、パリ、ミラノ、ローマ、そして足を伸ばしたバルセロナも、もはや夢の中だ。
行く先々のホテルで、両親は祐子に気を使いながらも、浮き浮きして夫婦の部屋へ引き上げて行った。異国の独りぼっちの部屋で祐子は、久しぶりに両親の官能が燃え上がるのだろうと思った。

まだ幼い頃、寝室の戸の隙間から見た、素っ裸の両親が絡み合う姿態が脳裏に浮かんだ。後ろ手に縛られたまま大きく股間を広げ、猛々しいペニスを突き出していた父。その股間に蹲ってペニスをくわえ込んだまま、大きな尻を淫らに振っていた母。覗き込む祐子の視線を捉えた父の、恐怖に満ちた目。叫び声を押し止めた黒い革の猿轡。
未だ忘れることのない場面が与えた衝撃で、幼かった祐子は自らの心を閉ざしてしまったのだった。しかし、その後の事件で、空っぽの隙間を埋めるために性を追い求める人の気持ちが、なんとなく受容できるようになった。

でも、初めて着いたベルリンの街で、祐子に内緒で乗馬鞭を買って来た両親の行為は、露骨すぎて許せなかった。
買い物袋の底に隠されていた、あのしなやかな皮鞭が、旅先で素っ裸に剥かれた父の尻を夜毎打つのかと思うとやり切れなかった。
真剣な表情で性を追い求めたバイクの姿を、間近に見たにもかかわらず、両親の官能に戸惑う自分が、妙に情けなくもあった。
「待ってくれ。もう少しなんだ」と、Mに連れ去られる祐子の背に呼び掛けたバイクの声が何度も耳に甦った。

前後左右に揺れる、天井から吊り下げられた剥き出しの女の尻の下で首を曲げ、祐子を見上げたバイクの目は、何を訴えようとしていたのだろう。
確かにバイクはあの夜、大きく変わろうとしていたと確信できる。そのために祐子を求め、引き留めようとしたに違いなかった。
Mに頬を張られたくらいで、抗いもせず連れ去られた自分が悔しくてならない。悔やむ気持ちを引きずったまま、気に染まぬ海外旅行で夏休みのほとんどを過ごしてしまった。
来年度予算の概算要求で忙しくなると言って、父は都会に戻って行った。その父を追って母は、毎週末をまた、都会で過ごしている。
やりきれなさだけが、この街に帰って来た祐子を押し包む。

あの夜から八回、週末があったのに、バイクは散歩に誘いに来なかった。
別に、祐子がバイクを訪ねて行けば済むことなのだ。訪ねる機会は毎日のようにあるのに、裸で悶えていたバイクを見捨てたようなわだかまりを、乗り越えることができない。あの夜、サロン・ペインに行ったことが悔やまれたりもする。じっとしたまま、腐ったような時の流れに身をまかしていることが、情けなく、悔しかった。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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