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9 五年遅れの卒業(2)

西の空にはもう、ほんのりとした明るさしか残っていない。一日の終わりが訪れようとしていた。バイクは上着のポケットから細いスチール線を取り出す。楽器店で買ったばかりのギターのA線だった。
細く強靱な弦を延ばし、慎重に勃起したペニスの根元を縛り上げる。晴れ晴れとした痛みが股間を突き破りそうだ。
余った弦を延ばして、背後のフェンスに結わえつけた。
上着の内ポケットから四つに折り畳んだ、白い画用紙を取り出し、胸ポケットに入れる。
準備は終わった。

根元を縛られたペニスが狂おしい存在感を主張し、赤黒く変色していく。しかし、開放することはできない。晴れがましい顔で、下を見下ろす。
高等部のキャンパスには誰もいない。
さあ、祐子。早く来てくれ、卒業式の準備は終わった。


祐子は、織姫通りから命門学院高等部に向かう道路の信号が青になるのを待った。
交差点を渡って、十分も歩けばキャンパスに着く。
祐子はイライラしながら、赤信号を見つめる。胸元の赤いリボンに無意識に手を掛け、形を整える。遅れそうだった。私服で来れば良かったと思う。
わざわざバイクの嫌いな中等部の制服に着替えたために、時間を失ったことが悔やまれてならない。

高等部とはいっても命門学院だった。中等部に在学している祐子が、私服で登校するわけにはいかないと思った。高等部の教師が何人も、講師として中等部で教えていたのだ。
ただの日常に負けて、祐子は制服を着た。情けなさが込み上げて来る。わざわざバイクの家の玄関先まで行って、バイクがいないかと確かめたことさえ今は愚かしい。高等部で待ち合わせを約束した車椅子のバイクが、誰もいない家にいるはずもなかった。

織姫通りの車両が止まると同時に、祐子は信号も確かめずに通りを横断した。すかさずクラクションを鳴らされ、ぎょっとして右手を見る。タイヤを鳴らして右折してきたオープンのMG・Fが祐子の前を掠め、三メートル先の歩道沿いに止まった。
運転席から振り返ったMが、怪訝そうな顔で祐子を見つめている。
とにかく、遅刻しないことが先決だった。

MG・Fに駆け寄って、助手席に滑り込んだ。
「お願いM、命門学院の高等部まで乗せて行って」
「いいわよ。でも、何をそんなに急いでいるの。信号の変わり鼻は右折車に注意しなさい」
もう、説教はたくさんだった。祐子は直截に事情を話す。
「バイクが高等部を案内してくれるの。でも約束の時間に遅れそうなの。早く車を出して」
いつも素早いMが、車を発進させない。意地悪をされているような気がしてくる。
「急ぐことはないわ。車なら二分よ。確か高等部は今日、マラソン補習の初日でしょう。気が向いたら夕食時間を取材しようと思っていたところよ。そんな日に、バイクが学校を案内するって言ったの」
「そう。約束したの。六時半にキャンパスで会うのよ。早く行って欲しいの、遅れたくない」
Mは黙ったままハンドルを握っている。苛立つ祐子を無視して、ぽつりと不吉なことを言う。
「行かない方がいいと思う。嫌な予感がするわ。今日は校内を案内できるはずがないのよ」
怒りに顔を赤く染めた祐子が、ドアに手を掛けた。
首を左右に振ったMが、思い切りアクセルを踏み込む。
「バカッ」
Mの声がエンジンの轟音に混じった。祐子の捻ったままの身体がシートに張り付く。凄まじい加速でMG・Fは、車両の途切れた道を疾走した。頭上を駆け抜ける風が、二人の長い髪をなびかせていく。
やはり、私が付き添って行った方がいい。また嫌な予感が胸を掠め、Mはアクセルを踏む右足に力を入れた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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