2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

8 改めての招待(4)

制服でいいと言う母の言葉に逆らい、無理に買ってもらった黒のワンピースを着て祐子は狭い路地を歩いて行く。暑い風に乗って、香の香りが流れてきた。
二日振りに見るバイクの顔が、初めて見る玄関の内部に見えた。
玄関の中は日陰になっていたが、祭壇の他にはバイクと天田の姿しか見えない。寂しすぎる葬儀だった。目頭が熱くなってしまう。

「あれっ、後輩は制服じゃあないんだ」
場違いな天田の声が響いたが、無視して祭壇に一礼する。掲げられた写真はぼやけていたが、柔和な顔の老女が祐子に笑い掛けている。陰惨な屍の記憶が一散に消え去っていった。バイクが無理に会わせたくなった気持ちも分かった。
祐子は写真に微笑み返してから、香を焚いて手を合わせ、瞑目した。瞼の中でなお、老女は微笑み続けている。

「ありがとう、変な言い方だが喪服がよく似合う」
焼香の終わった祐子に、バイクが声を掛けて近付いて来た。
「バイクは制服が嫌いだから、この方がいいと思ったの」
「ありがとう」
バイクが同じことを言って、誘うように表に出た。
「バイク。喪主が動き回っては駄目だ」
天田が声を掛けたが、バイクは返事もしない。黙ったまま三メートル進んで、後ろに続いた祐子を振り返った。参列者のいない葬儀で諦めたのか、天田はそれ以上何も言わなかった。

「会えてうれしかったわ。施設にいるんですって」
黙ってバイクが頷いた。心なしか、表情が硬い。
「また会えるかしら」
言ってしまってから、不吉な言葉になったと後悔したが、返事はすぐ帰ってきた。
「いつものように週末に会えるさ。ちょうどその日は高等部のマラソン補習が始まる日なんだ。ぜひ、祐子に高等部を見て欲しい。午後六時半に高等部のキャンパスに来てくれ。一緒に学校を見よう」
「いいわ。バイクがあんなに好きだった高等部を案内してもらう。来年は私も進学するから、やっとバイクの後輩になれる」
明るいバイクの答えに心が浮き立ち、浮かれ声で答えた。
「きっとだよ」

路地を入って来た参列者を認めて、念を押したバイクが玄関に戻って行く。
内心のうれしさを喪服に隠して、祐子は初老の参列者と擦れ違った。
週末が待ち遠しかった。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
03 | 2011/04 | 05
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR