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5 初舞台に上がれ(2)

「なあ、バイク。変わらなければ駄目だ」
ウイスキーのグラスを片手に、天田が大きな声を出した。
カウンターにいたMとママが振り返り、チーフとナースもフロアのテーブルに注目した。
盛り上がらないままのクラス会からは、ぼそぼそとした陰気な話し声しか聞こえてこなかったのだ。天田の大声は、場面の転換を予感させた。

「余計なお世話だ。俺は変わった。変わってしまったんだ。見れば分かるだろう。お前なんかに、変われと言われる道理はない」
酔いの回ったバイクの掠れ声が響き渡った。
ピアニストが静かな声で、諭すようにバイクに話し掛ける。
「いや、僕たちは気持ちのことを言ってるんだ。変化を認めない、変化を求めない、そんなバイクの気持ちが問題なんだ。友達として堪えられない」

「友達だって。そんなものいたのかな」
「いるからこうして酒を飲んでいる。俺は都会にいたときも、お前のことが気掛かりだった。だから、ケースワーカーになって帰って来たときから、お前の情報を集めた。今のままじゃ駄目だ。酒と小娘に溺れているだけじゃないか。いいか。映子はもう死んで、いないんだ」

大きく目を見開いた天田が、ピアニストの言葉に首を左右に振っているバイクに叫んだ。
「勝手なことを言うな。何が小娘だ。祐子の悪口は許さないぞ」
顔を真っ赤に染めてバイクが言った。しかし、怒りばかりではなく、気恥ずかしさの混ざった声が、天田の舌鋒に拍車を掛けた。
「なあ、バイク。お前はもう、憧れだけを食って生きていく歳じゃないぜ。いくら酒で燃え上がらせようとしても、過去の記憶に火がつくだけだ。現実を見ろよ。なあ、バイク。お前のペニスは、たまには勃起するのか。それとも、性感が戻らないままくすぶっているのか」
残酷な言葉だった。見る間にバイクの肩が小刻みに震えだした。

「クソッ」
唇を噛みしめた口から、憎しみに満ちた声が上がった。勢いを付けて両手で車輪を回し、車椅子をバックさせて出口へ向かおうとする。
「バイク。逃げるのか」
椅子から中腰になった天田が叫ぶ。
スツールから素早く立ち上がったママが、車椅子の取っ手を握ってバイクを引き留めた。
「友達は大事にした方がいいわ。性の話は重要なことよ。そんなに怒らないで話を聞きなさい」
「うるさい。赤の他人に恥を掻かされて座っていられるか」
止められた車椅子の中で全身を震わせ、バイクの怒声が高まる。
「友達に図星を指されたから怒るんでしょう。きっと欲望も強いのよね。性器のリハビリテーションはしているの」
「余計なお世話だ」
「そうかしら。若い人は、誰でも性欲が強いものよ。あなたも妄想だけでは勃起できないだけかも知れない。なぜ、努力しないの。性を求めることは、決して恥ずかしいことではないのよ。死より勝ることなの」

静かに話し掛けるママの言葉がバイクの耳を打った。死に勝るという意味を懸命に考える。
いつも繰り返し甦る、股間の記憶が浮かんだ。オートバイの後ろに乗った映子に握りしめられた、はち切れそうなほど勃起したペニスの感覚だった。そして、下半身が爆発したような感触に続く無惨な激突音と、静寂の中で確認した映子の死。確かにと、バイクは思う。死に勝る官能があってもいい。それが俺の再生に繋がるかも知れない。二つに分かれていた道を再び、選び直すことができるかも知れなかった。

祐子のマンションのリビングで、バイクの目の前に広げられた祐子の股間が、鮮烈に脳裏を横切る。剃り上げられた無毛の割れ目から覗く可愛らしい性器と、剃刀の刃の下で怪しく蠢いていた肛門。初めて見る裸身が与えた、言いようもない喜びと苛立ち。
もう一度、この肉体が官能の喜びに震えることができたなら、死もいとわなくなるかも知れない。いや、まだ残されたままの死を、官能で彩ることもできる。
バイクの両眼が怪しく光った。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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