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5 初舞台に上がれ(7)

「でも、行かない方がいいかも知れない。きっとMが怒るよ」
「私は、自分の行動は自分で決めます。Mに怒られても構わない」
ピアノの音が唐突に止んだ。立ち上がったピアニストがゆっくりと祐子の前に回って来る。
「何でも自分で確かめないと気が済まないのかい」
「いいえ、そんなことはないわ。重要だと思ったことだけ自分で確かめたいの」
「失礼だけど。ひょっとして毎日が苦痛なのかな」
「そうよ」
「そして、何とかしたいと思っている」
「そう」

ピアニストの太い眉が眉間に寄せられた。小さく溜息をついてから肩を落とす。この街で会う女性はみんな、正直すぎると思ってしまう。なぜ、装いきった自分を許せないのだろう。
「案内はしないけど、どうぞ二階に上がってください。僕はまたピアノを弾くよ。リクエストはあるかい」
「グレツキの悲歌のシンフォニー」
「弾けないな」
「さっきのジャズでいいわ」
言い捨てて、祐子は赤いドアを開けた。一瞬後ろを振り返ると、遠くを見る目でピアニストが祐子の目の奥を見た。祐子は黙ったまま赤いドアを通った。

階段を上がって行く背にまた「エリーゼのために」が聞こえて来た。クックックッと笑うピアニストの声も聞こえた。


ピアニストが階下に去ってから、三十分は経っただろうか。
Mの左側の鏡の中に、大きく広げられたチーフの股間が映っている。後ろ手に縛られたまま仰向けになったバイクが、無理に頭をもたげ、舌先で股間を追う。意地悪く股間が揺れて舌先を掠める。血走ったバイクの目が開かれた陰部を見据え、全身を震わせて苛立つ。
素っ裸で後ろ手に緊縛されたチーフは、両足を大きく開き、曲げた両膝を縛った縄と腰縄で、天井から吊されていた。ちょうど股間が、バイクのもたげた口に触れるほどの高さで、悩ましく裸身をくねらせている。
裸身の揺れに応じてバイクの舌が股間を這い、性器や肛門を舐める。その度にチーフの口から淫らな喘ぎが洩れ、裸身を吊り下げた縄がギシギシと鳴った。

ついさっき、黒い服を脱ぎ捨てたナースの豊満な裸身が、バイクの萎えた下半身に被さっていた。萎びきったペニスを両手でしごき、口でしゃぶる音が不気味に響く。
全身から汗を滴らせて、苦悶するように蠢き、チーフの股間を追うバイクの口から低い呻き声が洩れ、唇の端を涎が伝い落ちる。
凄惨な光景だった。これで勃起しなければ、バイクの性は甦らないだろうと、Mにさえ思われるほどの修羅場だった。

「頑張れバイク。もう少しだ」
興奮した天田の、格闘技を声援するような声が飛んだ。
Mは苦い笑いを呑み込んで、空になったグラスにハイネケンを注いだ。チーフとナースの迫真の演技を笑うのは不謹慎と思えるほどの熱狂が、クラブ・ペインクリニックの舞台を支配していた。

一人で舞台の下に立ったママは、醒めきったビジネスマンの目で舞台を見ている。そして立ち去ってしまったピアニスト。舞台鑑賞をチーフに勧められたM。それぞれの思惑を呑み込んで舞台は進行していく。


バイクは無我夢中だった。
自由になる上半身をナースに後ろ手に縛られ、舞台の上に仰向けに寝かされている。顔の上に吊されたチーフの股間が、舌を誘って揺れる。
素っ裸になって股間に被さったナースの豊かな裸身が時折、腹に密着する。頭の中は既に真っ白になり、スパークする青い光が滅茶苦茶に錯綜して行く。しかし、思念の深奥で渦巻くドロドロとした粘液質の感情の固まりが、じわじわと肥大し、感覚のない下半身に滲出していく予感があった。その予感に、バイクは全身全霊を賭けようと思った。もはやプライドも羞恥心もない。ただ、かつて死と隣り合わせに存在した、官能の極みだけを求めた。それが生き残った者の、死に対する抵抗でもあるかのように激しく悶えた。バイクは映子を、祐子を、そしてチーフとナース、あらゆる女の妄想を喚起し、この舞台に上げたいと欲した。

固く目を瞑ると、舌に触れる粘膜の感触が脳の一点に収束する。鼻を打つ性器と肛門の匂いが、さらなるステージに引き上げる。祐子とチーフの剃り上げられた股間の、手と舌の感触が統合されて一体となる。
その時、何の感触もない下半身の奥に一点、消え入りそうな熱を感じた。バイクは、その小さすぎる熱源を必死に追い、舌を突きだしたまま「エイコ、ユウコ」と、胸の奥で大きく叫んだ。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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