2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

4.突然の招き(8)

剃り上げられた股間に手を伸ばし、小さく盛り上がった陰部を愛しそうに掌で撫でる。チハルの両頬が羞恥で赤く染まる。
しばらくチハルの股間を撫で回した後、再び理事長は立ち上がり、Mを見下ろして乾いた声を出す。
「Mに要望がある。今、この場で裸になって欲しい」
声に動じた風もなく、高く組んでいた足を解き、ゆっくり立ち上がったMが理事長の目を見つめた。意外なほど澄んだ瞳がMを見返す。
「理由を尋ねてもきっと、理由など要るのかと言うのでしょうね」
大きくうなずく理事長にうなずき返し、Mはワンピースのファスナーを下ろした。
両腕を袖から抜くと、服がそのまま肌を滑り落ち、黒いストッキングとガーターだけになった白い裸身が現れた。Mは落ち着いた仕草で首のスカーフを取り、ガーターを外した。片足ずつ上げてストッキングを脱ぐ。足下に落とした視線が、Mを見上げるチハルの目を捕らえた。憎悪に燃えた眼差しだった。

「チハル。Mと代わりなさい」
理事長の言葉に従い、Mはチハルに代わってテーブルに上がった。
赤黒い紫檀のテーブルの上に、白く輝く豊かな裸身が横たわった。黒々とした長い髪と豊かな陰毛が、ドームから射し込む光を浴びて漆黒に輝いている。
「成熟した美しい身体だ。Mはきっと、この肉体しか信じていないのだろう。美しすぎて、羨む気にもなれない。しかしM、これは稀有な例だと思った方がいい」
裸身を見下ろす理事長の口から、感嘆の声がこぼれ落ちた。
「そんなことはないわ。チハルも若々しくて美しい」
ドームから差し込む柔らかな光を浴びた理事長の顔を見上げ、はっきりとMが答えた。
「それがMの驕りなのだ。恥ずべき容姿など、Mには存在しない。しかし、自分自身に存在しないからといって、他人もそうだと断定することが驕りなのだ。容姿を恥じて生きねばならない者の気持ちなど、Mには理解できない。特異な美しさに気付くこともなく、自信だけを受け取って身を処している。だから、稀有な例だと言ったのだ」
言い聞かすように話す理事長の視線がMの裸身を這い、両眼が炯々と輝く。

「M。若々しくて美しいというチハルの股間は、ツルツルに剃り上げられている。自らの肉体に自信がある者は、決してそんなことはしないものだ。M、老いさらばえて醜くなった自分を想像したことがあるか。美しさは儚いものだ。だから悲しいのだよ。やはり、人は美しい秩序を作るべきなのだ。私を見れば分かる。見なさい」

突然襲い掛かってきた予期せぬ論理を、目をつむって聞いていたMが、命じられるまま目を開いた。
見上げた正面に、紺のローブを捲り上げた理事長の裸身があった。痩せた身体の中央を長い手術痕が十字に走っている。醜くひきつれた大きな傷跡だった。

「どこにも秩序のない、醜い肉体だ。この肉体に、とても信などおく気にはなれない。どうだろうM。しばらくここに居てもらえないだろうか。そしてコスモスについて、やはり記事にしたいと思えば書いたらいい。そうでないと、M自身が迷うだろう」
Mが自分の肉体だけを信じていると言い切った男が、一つの提案をした。即座に反論できないことを見透かしたような提案だった。

これまでの生き方に疑問を投げ掛けられたまま取材を済まし、勝手な記事を作るわけにいかないとMは思った。提案に異論はない。
「ホームステイさせていただきます」
横たわったまま静かに答えたMの視線の隅で、チハルの裸身が真っ赤に染まった。怒り心頭に達してしまったらしい。
楽しそうにアンプに近寄っていった理事長がボリュームを上げる。
フーガの二十一番がドーム館に響き渡った。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
04 | 2011/05 | 06
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR