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4.突然の招き(5)

「初めまして、月刊ウエルフェアーの編集者のMです。今日は、お忙しい中を、取材にご協力いただいて恐縮です」
用意した名刺を型どおりに差し出し、理事長の目を見つめた。
「Mさん、あんたに会うのは初めてではない。昨日会ったばかりだ。それなりの挨拶も交わしている。まあ、座ってください」
差し出された名刺にさっと視線を飛ばし、そのまま後ろに控えるチハルに名刺を渡してから、理事長は深々と椅子に座った。Mも勧められたソファーに浅く腰を掛ける。
紫檀のテーブルを挟んで座るMの全身を、理事長の視線が遠慮なく舐め回した。

「変わったご縁で昨日お会いしてしまいましたが、素敵な車を用意していただいて助かりました」
理事長の視線に耐えきれず、Mが口を開いた。シルクニットを通して、裸身を見つめられたような気がしたのだ。
「隣の部屋から見せてもらいましたよ。MG・Fはあなたのボデイ・ラインにぴったりの車だ。よく似合っていた。私のコレクションの一台なのだから、存分に乗りこなしてください」
出掛けにチーフの言った言葉がMの耳に甦る。身体の線がそのまま見える服を着てきたことに悔いはないが、一方的に踏み込んでくる理事長の対応は想像を超えていた。これまで経験したこともないインタビューになりそうだった。

「理事長さんのお姿は、パンフレットのお写真で知っていたはずなのですが、ずいぶんお変わりになっていたのでびっくりしました」
理事長はつまらなそうにMの言葉を聞き流す。

気詰まりな沈黙の後、天井のドームを見上げてから真っ直ぐMの目をのぞき込んで口を開く。
「癌の手術をしたのですよ。しかし、転移があり、今も増殖を続けている。私と癌の二人分のエネルギーを消費するのだから、以前の写真とは比べものにならない」
理事長の答えは衝撃的だった。Mは次の言葉に迷った。とっさに繋ぐ話題が見当たらなかった。

「あなたは慣れないことをしている。私はMについて、秘書のチハルから色々な情報を聞かされている。マイペースで話してくれた方が、私も時間が掛からなくていいのだが、違うかね」
対決を求めるような理事長の言葉に、Mは覚悟を決めてソファーに深く座った。長い足を高々と組んで、理事長の目を真っ直ぐ見つめる。短すぎるワンピースの裾から伸びた太股が、足の動きに連れて、怪しく開いて、閉じた。剥き出しの股間が一瞬、明るい部屋の空気を呼吸する。やはり、月並みなインタビューが通用する相手ではなかった。

理事長の目に、新鮮な輝きが戻ってきたのがMに分かった。
「やっとMらしくなったようだね。私は正直な人間が好きだ。きっと、自分が何物であるかイメージできているはずだからね。それから先は私が判断する。それが私の仕事だ。別に現実が、その人間の持つイメージ以上でも、以下でも構いはしない。私は判断に応じた対応をするだけだ」
楽しそうに話す理事長の口元には、自信に満ちた笑みさえこぼれている。後ろに控えるチハルが、面白くなさそうに口を一文字に結んだ。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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