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1.予期せぬ再会(2)

Mが市に帰ってきたのは三年振りだった。しかし、三年前に比べ、市はほとんど変わり映えがしなかった。都会の喧噪に慣れた目には、灰色にくすんだ市街が惨めにさえ見えた。
深夜に都会を出て、高速道路を走り抜けた後、アクセスの悪い地方道を飽きるほど運転してきた。決して懐かしさを感じさせることもない市街を一巡し、官庁街に入ったところで、新しい公園を見付けた。車窓から見た銘板には、中央公園と書いてある。三年前には、コンクリートにひびの入った廃墟のようなスタジアムが建っていた場所だ。
確かな時の流れを感じさせる新しい建造物は、ドライブの疲れを癒すのにもってこいの場所に思われた。何よりも、三年前の記憶から遮断された風景が好ましかった。たとえ仕事で来たとはいえ、早すぎた到着を苦い思い出で飾りたくはなかった。
それが、三年前どころか、六年も前の記憶を甦らすことになってしまったのだ。
うんざりする疲労が寒さと混ざり、Mの足元から頭の先へ上がってくる。


寒々とした水を宙に吹き上げている噴水の下で、少年は身体を曲げて横たわっていた。
歩道から見た冷え冷えとした印象と異なり、そこは暖かな日溜まりになっている。枯れた芝生に横顔を当て、微かに息づく少年の表情に、Mは遠い日の面影を認めた。

光男に違いなかった。
「ミツオ」
小さく呼び掛けた声に、少年は反応しない。
横たわる少年の傍らに立ったMの影が長く、枯れきった芝生の先へ伸びている。
「ミツオ、起きなさい」
もう一度呼び掛けると、少年が微かに身体を震わせた。
「ウー」と低い呻き声をあげ、右手で握ったビニール袋をMに差し出す。
袋の中の白濁した液体が、朝日を浴びて輝き、怪しく揺れた。
異様な液体が邪悪な意志を伝える。Mは少年の横にしゃがみ込み、差し出されたビニール袋を素早く奪い取る。袋の口から透明の液体がこぼれ、Mの鼻孔を刺激臭が襲う。シンナーのにおいだった。

「ミツオ、ミツオ」
ビニール袋を投げ捨て、Mは二度名を呼んで肩を揺すった。周囲にシンナーの臭気が満ち、少年の鼻孔が膨らむ。
「フクロを返せ、クスリを返せ、」
ろれつの回らぬ口で、少年が訴える。大きく開かれた焦点の定まらぬ目で、不安そうに周囲を探る。
「ダメ、ミツオ。しっかりしなさい」
呼び掛けながら、Mは少年の肩を揺すり続ける。落ちそうになる頭が力無く揺れ、突然、少年の表情が戻った。憎悪に燃えた視線が、Mの目を突き刺す。
「ウルセイ、ババア。あっちに行け」
怒声が耳を打ったが、頼りないほど情けない声だ。
自分の声で覚醒した少年の目が、おどおどと周囲を見回す。探るような視線が二回、Mの目を掠めてから、足下へ落ちた。
堪らない悲しみがMの胸に込み上げてくる。憐憫といってもよかったかもしれない。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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