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4.突然の招き(3)

「さすがに時間通りだね」
明かりが消えて汚れの目立つ看板灯の横で、チハルが唇を歪めて言った。黒いつなぎのライダースーツを着て、右手に同色のフルフェイスのヘルメットをぶら下げている。
「フェラーリが迎えに来るんじゃなかったのね」
「私は出先から来たんだ。Mのお陰で予定が狂った」
「私に意地悪をしたせいでしょう。それで、私もバイクの後ろに乗るの」
チハルの厳しい視線が、Mの全身を舐め回した。眉間が鋭く寄せられ、幼さの中から怖い表情が浮かび上がる。
「夜の勤めに行くような格好の奴を乗せはしない。MG・Fでついてくればいい。私が先導する」
お陰で、簡単なメイクはできるだろうと思い、Mの口元に笑みがこぼれた。

「会見はどこでするの」
「理事長の自宅」
吐き捨てるように言って、チハルはホンダの400ccに跨り、ヘルメットを被った。
Mは手に持ったダウンジャケットを着込み、MG・Fをオープンにした。
運転席に着き、エンジンをかけてからチハルに大声で尋ねる。
「場所はどこ」
「山地」
ヘルメットの中からチハルの声が響くと同時に、かん高いエンジン音を残してオートバイがスタートした。負けずにMもアクセルを踏み込む。
人気ない真昼の歓楽街に二台のエキゾーストノイズが轟き渡った。


山根川に沿ってくねくねと続く市道まで出ると、チハルのオートバイのスピードが上がった。見事に車体を寝かせて急カーブをクリアーしていく。MG・Fとは百メートル以上の差が付いてしまった。
Mは、見覚えのあるヘアピンカーブをギアを二速まで落として鋭角に曲がる。MG・Fのテールがさっとアウトに流れたが、さすがにミドシップエンジンの立ち上がりはよい。瞬く間にバランスを立て直してスピードを上げる。三十メートル先の横道の入り口に、オートバイを止めたチハルの姿が見える。Mを認めるやいなや、凄いスピードで横道へと発進した。

細い疎水沿いに広い道が続く。Mの記憶よりずいぶん幅員が広くなっていたが、ピアニストの蔵屋敷に続く道に違いなかった。
葉の落ちたケヤキの大木が見え、梅の梢越しに蔵屋敷の黒い屋根が見えた。通り過ぎるときに風向きが変わり、八年前の梅の香の記憶が鼻孔の底を流れていった。
山肌を削って広げた道は、山の中へと続いている。しばらく山に分け入った後、遥か前を走るオートバイが、切り通しの陰に消えた。

Mはアクセルを踏み込み、やっと平坦になった道を切り通しに向けて下った。
下りきった先に小高い丘が広がっている。
丘を回り込むようにして坂を登っていくと、異様な建築物がフロントガラス一杯に姿を現す。
コンクリートでできた方形の建物は、屋根の代わりに光り輝く巨大なドームを載せていた。まるで天体観測所が出現したようだ。壁面には鉄色のタイルが張られている。正面に大きな車寄せがあり、小さな玄関が見えた。
車寄せから手招きするチハルの指示通り、Mは玄関先にMG・Fを止めた。
「五分後にドーム館のドアを開けます。他に来客の予定がないので、車寄せに駐車してください」
秘書の口調に戻ったチハルがMに告げ、オートバイのエンジン音を轟かせて建物の裏へ走り去った。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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