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4.突然の招き(4)

改めて見上げるドームは、遠景で見たときの驚きが去った今では、それほど大きく見えなかった。かえって、十メートル程離れて建つ、巨大なガレージが目立つ。ドーム館と向かい合った細長いガレージのシャッターはすべて開かれ、十台ほどの車が見て取れた。手前にある、お馴染みの真紅のフェラーリを初めとして、全部がツーシーターのスポーツ車だ。ポルシェやジャガーなどの外国車ばかりでなく、国産車もある。どういうわけか、一番端のスペースの隅に、リアが潰れたホンダ・ビートが置いてあった。

Mが車を降りてガレージに向かおうと思ったとき、玄関が開かれた。昨日と同様、白いユニホームに着替えたチハルが深々と頭を下げる。
「私の車を見てきていいかしら」
Mが尋ねると、チハルが慇懃に断る。
「時間がありません。理事長がお待ちです。中にどうぞ」
Mはもう一度ガレージに目をやってから、ダウンジャケットを脱いで助手席に置き、ショルダーバックを右手に提げて玄関に通った。

吹き抜けになった広い玄関ホールの先に、立派な階段が続いている。
先に立つチハルをまねて、靴のまま黒の厚い絨毯を踏み締めていく。緩やかにカーブした広い階段を上り、二階のホールに出た。
突き当たりのドアの前でチハルが止まり、大きくドアを開いてMに道を空ける。
Mの前に円形の明るい空間が開けた。広さは二十畳ほどだが、まるで音楽ホールを小さくしたような造りだ。右手にスタインウェイのグランドピアノまで置いてあった。

部屋の壁は、幅一メートルの白木の板を巡らせて円形に造られていた。高さは六メートルはある。その円形の壁面が、天井の大きなドームを弱々しく支えているように見える。ドームを見上げるMを、不安定な感覚が襲う。
照明はすべて、ガラス張りのドームから入る自然光だった。ドームの北側だけシャッターが開き、フラットな光が優しく室内を満たしている。窓が一つもない部屋にも関わらず、照明に違和感はない。
床は毛足の長いアイボリーのカーペットで被われている。ピアノから二メートルほど離れたところにグリーンの布張りの椅子が二脚とソファーが置かれ、その前にシングルベッドほどの大きさがある、高さ五十センチメートルの立派な紫檀のテーブルが置いてある。ピアノの横に大きなJ・B・Lのモニター・スピカーが置かれ、さり気なくアキュフェーズのオーディオ機材が積んである。広い部屋の調度はそれだけだった。

Mが部屋に入ると、チハルが後ろ手にドアを閉めた。ドアにも白木の板が張られ、ノブを確認しない限り壁と区別することができない。異様な造りの部屋だ。
ピアノの横で立ち尽くすMを尻目に、チハルが入り口の左手に当たる壁の辺りをノックして、ドアを開けた。

「ご案内してきました」
チハルの声を待ちかねていたように、理事長が姿を現す。
百八十センチメートルはある長身を、紺のフランネルで作った足首まで届くローブのような服で被っている。まるで、カトリックの神父のようだ。
「こんな山奥まで来てくれて、ありがとう。遠慮せず座ってください」
ソファーの前に回ったMの側に、チハルを後ろに従えた理事長がゆったりとした身のこなしで近付いてくる。ドームから差し込むフラットな光が、白髪を銀のように輝かせる。
窓のない円形の室と聖職者のような服装が、Mに現実離れのした世界の開幕を告げる。幻想的なたたずまいに不思議な魅力を感じはしたが、理事長のペースに巻き込まれるわけにはいかないとMは思った。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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