2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

3.それぞれの夜(4)

紺のバスローブをまとってソファーに座った祐子の目の前で、剥き出しのチハルの尻が揺れた。
「迷惑なら迷惑って言うんだよ、祐子。あんたは受験生なんだから、私も心配なんだ」
冷蔵庫のドアを開け、少年のような尻を突き出したまま中をのぞき込んでいたチハルが、祐子を振り向いて言った。小麦色をした胸元で固く締まった乳房が弾んでいる。
「私の受験を気にするなんてチハルらしくないわ。どうせ独りで住んでいるようなものだから、いつチハルが来ても構わない。それより、私はチハルが心配。秘書の仕事って、ストレスが溜まるんでしょう」
缶ビールとグラスを二つ持って、冷蔵庫から戻ってくるチハルに祐子がのんびりした声で答えた。

チハルは風呂上がりの上気した肌を光らせて祐子の横に座る。素っ裸のままだ。小柄の裸身はきめ細やかな肌がよく引き締まり、祐子の目にも妖精のように美しく見える。健康そのものといった、羨ましくなるほどのプロポーションだ。ロングのヘアピースを取り去って、ツンと立った髪先から湯の滴がこぼれている。耳元でダイヤのピアスが白く光った。

「祐子の両親が都会の官舎住まいになってから、もう一年になるんだね。きっと、祐子が都会の大学に進学するのを心待ちにしているよ」
テーブルに置いた二つのグラスにビールを注ぎながら、チハルが楽しそうに言った。
「そうね」
祐子がチハルに合わせるように明るく答えた。
「でも、祐子は都会に行かない。この街の工学部に進学してテキスタイルの勉強をするんだ。そして、私の家の鋸屋根工場をアトリエにして、作品を世界に発信する。祐子の両親は残念だろうが、文化の発信はこの街からだってできる。私も楽しみで仕方ないよ。そのために私はコスモスで頑張る」

外壁に青い蔦が複雑に絡み合った、どっしりした石造りの鋸屋根工場が祐子の目に浮かんだ。十メートル近くもある高い天井から、北向きのフラットな光が穏やかに入り込んでいる、がらんとした空間だ。五年前に廃業したチハルの家の織物工場は、最高のアトリエになると思われた。
命門学院高等部から短期大学部に進み、昨年死んだ機業家の父の薦めでコスモス事業団に入ったチハルと、国立大学の工学部に進み、テキスタイルを学びたいという祐子の、見果てぬ将来の夢が今夜も語られ始めた。継ぐ者のいないチハルの生家の織物工場のアンチックなたたずまいが、祐子とチハルに織物の街特有の夢を見させている。

「テキスタイルデザイナーか。かっこいいよね」
邪気のない声でチハルがつぶやき、遠くを見る目でビールを口に運んだ。思い付いたように、また口を開く。

「今日、Mに会ったよ」
祐子の両肩が緊張するのがチハルに分かった。チハルはそのまま口をつぐみ、祐子の反応を待つ。
「そう。何しに来たのかしら」
視線を足下に落とし、自問するように祐子が言った。
「コスモスの取材のために、都会から来たんだ。着いた早々、うちの理事長がMの車に追突してしまった。お陰でMは、ポンコツの軽自動車から、私の選んだ代車のMG・Fに乗り換えられた。運のいい女だよ」
「えっ、Mに怪我はなかったの」
「怪我する玉じゃないよ」
「そう、よかったわ。会いたいわね」
「会ってどうするんだい」
「そうね。Mに自慢できることはしていないし、今さら惰性で生きてるなんて、とても言えないわね。情けないわ」
「私たちには、夢があるじゃないか。今さら、あんな女に会う必要はない」
苛立たしそうに言ったチハルが一息にビールを飲み干し、乱暴にグラスをテーブルに置いた。気分を変えるように半身を祐子に向け、明るく媚びを含んだ声を出す。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

最新記事
カレンダー
04 | 2011/05 | 06
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
free area
人気ブログランキングへ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR