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5.ショー(4)

席を立とうとした瞬間、舞台の上の睦月が動いた。照明の加減で、滑らかな右肩に残る星形の弾痕が醜い影を見せた。完璧な肌に残る唯一の瑕疵だ。その醜い傷の責任の一端がMにはあると、見るに耐えかねた睦月の姿態が問い詰めてくる。ウッと喉元に上がってきたものを必死で耐えると、舞台を降り掛けた睦月の目が予期していたようにMを見た。右手に小さな竹籠を持った睦月は腰をくねらせながら近寄ってくる。Mの前まで来ると、顔をのぞき込んでじっと睨み付けた。大きく見開かれた闇の中で、燃え上がる憎悪がMの全身を射すくめる。

「肩の傷を見つめていたね。Mが修太を殺した恨みの傷だ」
他の客には聞こえぬ声で低く呼び掛けた顔が、妖艶に笑っている。

「ショーは面白いでしょう」
大きな声で甘えるように言い、睦月が尻を見せた。無惨に露出された肛門が淫らにうごめきMを笑う。
「イズミヤさんも、シマダヤさんも、おまちどうさま。さあ、ヨーク見て、よかったらこれをしてね」
Mの席を離れ、二人連れの客のテーブルに移っていった睦月が、尻を振りながら嬌声を上げた。
「もちろんしてやるよ。ムツキちゃんのお尻は色っぽいよ。はいこれでね」
客の一人がテーブルに置かれた竹籠から五本の洗濯ばさみを取り、代わりに五千円札を入れた。
「シーテ、シーテ」
舌足らずのネコナデ声で甘えながら、中腰になった睦月が腰をくねらす。二人の中年男も椅子から立ち上がり、睦月の乳房の皮膚を摘んでは洗濯ばさみで挟む。その度に睦月の顔が苦痛で歪み、淫らな呻きを漏らす。洗濯ばさみに吊り下げられた小さな鈴が、裸身のうごめきに連れて怪しく鳴り響く。ふっくらした乳房に五本の洗濯ばさみを吊した睦月が立ち去ろうとすると、二人の中年男が尻の後ろにひざまづいた。睦月が悩ましそうに尻を突き出す。中年男は交替で白い尻を抱え、縄目の間から露出した肛門を舐めた。睦月の口からまた嬌声が漏れる。

「大久保さん、これはアブストラクトですよ。いい女優です。使えますよ。ほんと、そう思いません」
左手から聞き慣れた歯切れの悪いバスが聞こえてきた。早口の興奮した声だ。演出家の沢田に違いないとMは思った。
「そうですかね」
幾分かん高い、聞き慣れぬ声がぶっきらぼうに答えた。
「まあ、SMショーでは衣装の出番はないからね。大久保さんが冷たいのは分かる。でも、祐子さんは違うでしょう。無粋な麻縄の代わりに、祐子さんが開発したステンレス・ファイバーの糸で撚った縄が使えますよ。ね、そうでしょう」
「ステンレス・ファイバー繊維は私が開発したものではありません。私は糸を織り上げるのが仕事です」
沢田のとんまな問いに、デザイナーの大久保も祐子もにべなく答える。聞いていたMは初めて痛快な気持ちになった。

「シーテ、シーテ」
また、睦月の嬌声が上がった。舞台左手に回った睦月が、興奮している沢田に狙いを付けたようだ。先ほど右手で繰り返された光景が沢田の手で再現される。しかし、さすがに沢田は睦月の尻は舐めなかった。洗濯ばさみとワンセットで五千円だとすると、沢田は二千五百円の損だ。馬鹿な話だと思い、Mは席を立った。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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