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8.試練(5)

「こんばんわ」
「おばんです」
荒々しくドアを開けて、大屋とお菊さんが事務室の中に上がり込んできた。
「何だ、お菊さんが一緒なのか。やはり借金話の蒸し返しか」
うんざりした声で言って、先生が二人を睨み付けた。
「いや、ちゃんと二十五万円を持ってきましたよ」
大屋が立ったまま憎々しい声で言って紙袋を突き出す。反射的に先生が首を伸ばして袋の中をのぞき込もうとした。Mの目に腰を浮かして前屈みになった先生の上半身が映った。
「何をするんだ」
大きな叫びを発した先生の首に、大屋が袋から出した電気のコードを巻き付ける。素早く先生の横に回ったお菊さんが、大屋から渡されたコードの端をつかんだ。二人一緒に綱引きのようにコードの両端を握って先生の首を絞め上げる。狭い戸の隙間からは先生の苦悶の表情だけが見えた。鼻から血を吹き、獣の唸りを上げて先生は暴力に耐える。しかし、それも一瞬のことだった。お菊さんの背に隠された顔がもう一度現れたときは、もう絶命寸前だった。黒く充血した顔に真っ赤に血走った目が恐ろしかった。首を絞められて中腰になった先生の身体がブルッと最後に震えた。それでも大屋とお菊さんは力を緩めず、悪鬼の形相で掌に食い込むコードを引っ張り続けた。とうとう先生の首の骨が折れる陰惨な音が部屋に響いた。あまりの修羅場にMは我を忘れて目をしっかり閉じてしまった。

「やっと終わった」
疲れ切った大屋の声がのんきそうに部屋中に響いた。
「長居は無用だ」
答えたお菊さんが寝室の戸を開け放った。事務室からの明かりを一身に浴びたMの姿を見て殺人者が度肝を抜かれた。二人が息を呑み、絶句する声がMに聞こえた。不気味な沈黙の後で大屋が掠れた声を出した。

「臨月の妊婦が縛られているのかと思ったら、Mだ。どうして金貸しの部屋で妊娠してるんだ」
大屋のとぼけた言葉にもMは笑うことすらできない。口枷をはめられた口を大きく開き、まん丸く見開いた目で二人をぼう然と見つめた。
「妊娠ではない。すけべ爺に折檻されただけだ」
お菊さんが陰惨な声で言った。二人の身体から殺気が伝わってくる。
「かわいそうだが見られてしまった。お菊さん、Mを殺そう。Mも責め苦から逃れられる。さあ早く、一緒に首を絞めよう」
獣のように暗く光る大屋の目がMを射すくめた。だが、お菊さんの答えはない。待ちきれなくなった大屋が片足をベッドにかけたとき、お菊さんが厳しい声で制止した。
「だめだ、Mを殺すことは許さん。殺さなくともMは何もしゃべりはしない。のうM、Mは責め苛まれて失神していたんだ。何も見てはいまい」
鬼気迫るお菊さんの形相に、Mはただうなずくだけだった。命が助かった喜びもない。一切の感情を無くして過酷な責めだけを肉体で甘受していた。

「ちょうどいい、金庫が開いたままだぞ。大屋さん、早く金を借りておさらばしようぞ。ざっと三千万円あるぞ。大屋さんはいくら借りたいんだ」
金庫の前にしゃがみ込んだお菊さんが大屋に尋ねた。
「俺は百万でいい。それ以上借りては返せなくなる」
「大屋さんは正直なお人だ。それではわしも百万円を借りようぞ」
殺人者とも思えぬ対話の後、二人はそれぞれ苦労して百万円ずつ抜き取ってから金庫の扉を閉めた。
「M、さっきも言ったとおり。ぬしは失神していたのだぞ」
帰り際にお菊さんが因果を含めてから、寝室の戸を閉めた。真っ暗になる寸前に見た事務室の文机には、醜く首をねじ曲げられた先生の小さな死骸がうつ伏せになっていた。ゴミのように惨めな死骸だった。殺人者はいなくなった。暗闇の中でカエル腹になった下半身が苦しく疼き、二度目の失禁が股間を濡らした。科せられた過酷な責めだけが、科す者が死んだ後もMを責め苛み続けていた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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