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4.憎悪(4)

突然、庭に面したガラス戸が開け放たれ、人影が躍り込んで来る。
「睦月、気が違ったか」
鋭い叫びが轟き、鞭を奪った極月が泣きじゃくる睦月の頬を打った。鋭い平手打ちの音が三回鳴った後、奇妙な静寂が戻った。
「M、帰りましょう。キチガイに殺されるわけにはいかないわ」
早口で言って極月がMの股間にひざまづく。裸身を無様に緊縛した両手足の縄を解き、Mを解放した。
「外は暗いから、Mは裸のままでいい。進太を抱いて助手席に乗りなさい。私がMG・Fを運転する」
極月の毅然とした声を聞いて、Mがのろのろと立ち上がる。全身が火で焼かれたように痛い。立ち上がって一歩を踏み出すと飛び上がるほど股間が痛んだ。なりふり構わず床に倒れ伏した進太に両手を伸ばすと、子猫のように腕の中に飛び込んできた。思わずMは、涙に濡れた進太の顔に頬刷りした。

「進太は行かせない。連れていくなら、この場で死ぬ」
キッチンの前でぼう然と立ち尽くしていた睦月が、流しにあった包丁を胸に当てて叫んだ。鋭い刃先で、スタンドの光が陰惨に反射している。極月は少しの動揺も見せずに、睦月の目をじっと見据える。睦月の目はおどおどとした小動物の目だった。
「死ねばいいわ」
吐き捨てるように言った極月がMを促して玄関に向かう。背後で睦月の号泣する声が聞こえた。
MG・Fのコンソールにある時計は午後六時二十分を指していた。素っ裸の進太を抱いて初めてMG・Fの助手席に座ったMは、痛む身体を忘れて溜息をついた。
「また遅刻ね」
今日三回目の遅刻だった。それも二十分の遅刻では極月に迎えに来られても文句は言えないと、Mは心の中で強がってみた。進太の身体をきつく抱き締めると、鋭い出足でMG・Fが発進した。極月は無言のままだ。辛いディナーになりそうだった。

極月がたててくれた風呂に水をいっぱい足し、温くなった湯にMと進太はゆっくり浸かった。それでも湯は、白い肌に走る無数の鞭痕に飛び上がるほどしみた。風呂上がりにMは、無惨に爛れた鞭痕に化膿止めの軟膏を塗った。乳房も股間もウエストも、目を被いたくなる惨状だった。目に見えない尻の鞭痕には極月と進太が喜々として指を走らせた。断りの声は決して聞き届けられなかった。二人に命じられるまま床に這って高く掲げた尻に、極月の冷たい声が落ちる。
「これだけ痛め付けられれば、Mも身にしみて分かったでしょう。睦月は異常者よ。今後は付き合うことはないわ。進太の処遇は私も考える」
反論しようとすると、極月が尻の傷を乱暴に擦る。Mは悲鳴を上げてうなずくしかなかった。

極月が丹誠込めて作ったローストビーフを三人で食卓を囲んで食べた。進太は何事もなかったように、はしゃぎながら平らげる。こんなおいしいものは食べたことがないと喜ぶ、最上級のほめ言葉に極月の口元も緩んだ。進太はだぶだぶなパジャマの上着を着ていたが、Mは素っ裸だった。十分反省するまで裸でいなさいと言って、極月が着衣を許さなかったのだ。もっとも全身の傷が痛んで、とても服が着られる状態ではない。明日の出勤が思いやられる。塗り薬の効くことだけを祈り続けて食事を終わった。進太と違って本格的なローストビーフを味わう余裕もなかった。極月の視線が怖い。

食事が終わってすぐ、疲れ切った進太はテレビの前で眠ってしまった。待っていたように極月が口を開く。
「鉱山の町の祖父母には私が電話をするわ。進太を引き取ってもらうの。M、文句は言わせないわよ。それが睦月のためでもあるの」
Mはうなだれたまま極月の言葉を聞いた。股間に走る無数の鞭痕が極月の言葉を肯定する。しかし、傷つかない陰門の奥で、しとどに濡れた官能の記憶がMの返事をためらわせた。長い沈黙が狭い部屋を支配する。さすがに耐えきれなくなった極月が身じろぎした。

「いいわね、同意してもらうわ」
「来週まで待って」
極月の催促に、やっとMが答えた。即座に極月の表情が曇る。
「何を根拠に待てと言うの」
「私は土曜日に睦月のショーを見るわ。睦月が全身を賭けて勤める舞台よ。これまで見に行かなかったことが悔やまれてならない。進太のことは睦月の舞台を見てから決めたいのよ」
「舞台と進太は関係がないわ」
「お願い。私に決めさせて欲しいの」
「M特有の論理ね。とても理解できるものではないけど、そんなMが私は好き。Mが決めるという以上、私がとやかく言う筋合いはない。でも、それまで進太はどうするの」
「彼が決めることよ」
「このまま帰したら、睦月が殺すかも知れないのに。無責任すぎない」
「それこそ睦月たち母子の問題でしょう」
「いつでも、どこでも、Mは強すぎると私は思う。私に言えることはそれだけよ。久しぶりで今日は楽しかった。お休みなさい」
意味深長な言葉を残し、極月は当たり前のように帰っていった。Mは強いのは極月のほうだと、喉元まで込み上げた言葉を呑み込んだ。強い女が私を好きだと言うはずがないと一瞬思い、強すぎる矜持をたちまち恥じた。

進太の寝顔は平然として安らかだった。深夜に目覚め、勝手に睦月の元に帰っていっても不思議がない意志の強さが伝わってくる。Mの心の奥に、深い悲しみと微かな寂しさが、遠く近く、波のように打ち寄せてきた。
陽気な八木節のリズムを聞きたいと唐突に思った。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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