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2.母子(2)

「素っ裸になって正座するのよ」
左頬を真っ赤に腫らせ、唇の端から血を流した進太に睦月が冷たく命じた。進太は返事もしないで立ち上がり、白い半ズボンとパンツを一緒に脱ぎ、Tシャツを脱いだ。南向きの窓から差し込む梅雨空の薄暗い光が、素っ裸で床に正座した痩せた身体を陰惨に彩る。
睦月は進太の裸身を憎々しい目で見た。我が子ながら苛立たしさがつのってくる。特に、貧相な股間で自己主張をするようにぶら下がるペニスが憎らしくてならない。まだ勃起することもない、皮を被ったままの排泄の役にしか立たないペニスだが、やがてこのペニスが成長し、女を喜ばすかと思うと醜悪でしかない。なぜ二十八歳の私が、自分のためにならない醜悪な性の面倒を見続けなければならないのかと思ってしまう。自分の命を刻むようにして乳を与え、下の世話をし、しつけをしてきたのに、思うような応えが返ってきた試しはない。日毎夜毎、空しい苛立ちだけがつのっていく。私の可能性と希望はどこに行ったのかと思い悩み、ただひたすら進太を責める。悪い母だと思うが、道は閉ざされたままだ。進太ではなく修太に逢いたいと、睦月は今、心の中で叫んだ。大きく息を吸って睦月は小さな裸身から目を反らす。食卓の下に置いた箱からSM自縛ショーで使う乗馬鞭を取り出し、正座した進太の正面に座った。

「あやまれ」
低い声が響き、乗馬鞭が進太の太股を打つ。小さな膝を合わせて正座した太股には、昨夜鞭打たれたばかりの赤黒い痣が浮かんでいる。その痣の上にまた鞭が飛んだ。
「ヒィー、ごめんなさい」
哀れな悲鳴と謝罪の言葉が進太の口を突くが、睦月は容赦しない。何度も何度も乗馬鞭が幼い素肌を責める。鞭打たれる度に進太は小さな尻を窄め、腰を振って悶える。股間に見え隠れする小さなペニスが淫らに蠢く。やがて太股を襲う逃れがたい苦痛が、幼い股間に快楽の小さな火を灯す。進太は全身に脂汗を吹き出させ、腰を振り続けるうちにペニスの芯が熱くなってくるのを感じた。リビングの隅に立ちつくしたまま、陰惨な光景に釘付けにされたMの目にも、股間で膨らみ掛けたペニスが見えた。
「ママを馬鹿にするの」
一声大きく叫んだ睦月が鋭くペニスの先を打った。
「ムゥー」
切ない悲鳴を残して進太の身体が前に崩れる。
「ちゃんと正座しなさい。ママはまだ許していないわ」
睦月が残酷に告げる。もうMには耐えきれなかった。

「やめなさい睦月。お願い、許してやって」
Mの悲痛な声に睦月が振り返った。今日初めて、二人が視線を交わし合う。Mが大きくうなずいて口を開いた。
「進太に、お昼を食べさせたのは私よ。私にも責任がある。いくらあなたの家庭のしつけだと言っても居たたまれないわ。度を過ぎた虐待にしか見えない」
乗馬鞭を握ったまま睦月が腕組みをして、じっとMの顔を見上げた。
「M、余計なお世話よ。進太は修太と私の子供よ。あなたに修太を殺された私には進太を一人で育て上げる責任がある。子無し女のMには、その責任がないんだから気楽なものよ。それとも進太に代わってMが罰を受けるつもり」
意地悪く言った睦月が胸を張ってMを挑発した。とんだ矛先が向かってきたものだと思って、Mは内心辟易とする。睦月の苛立ちが哀れでならない。子供が子供を産んで育てているとしか言いようがなかった。だが、睦月は進太の母に違いないのだ。その進太を守る義務がMには確かにあると思い定めるしか、この場を納める道はなかった。

「いいわ、私が代わる。睦月、私を責めなさい。あなたの折檻はただの気晴らしで、しつけとは何の関係もない。いくらあなたの子供でも、進太を病的な世界に巻き込む権利はないわ」
「M、よく言ってくれたわね。私は好きこのんで進太を育てているわけじゃない。文句があれば修太を返せ。これまでも散々子育ての邪魔をして、進太を無責任に甘やかせてきたのはMだ。隠そうとしても私はみんな知っている。二度と子育ての邪魔ができないように、懲りるまでお前を折檻してやる。進太と同様素っ裸になれ」
憎々しく言い切った睦月の目の奥で、暗い炎が燃えている。満たされぬ性と、出口の見えない絶望感が、卑屈な炎になって燃え上がろうとしているのだ。Mの全身を深い悲しみが満たす。
「いいわ。好きなようにしてみるがいい。でも、私はこれから会社で仕事がある。午後5時まで待って。絶対戻って来るから、もう進太は許してやって」
しっかりした声で答えたMを遮り、睦月が憎々しい声で応じる。
「Mは狡い。本気じゃないんだ。いつでも私を軽んじている。仕事と子供とどっちが大事だ。Mが戻るまで進太は許さない」
睦月は右手の乗馬鞭を投げ捨て、食卓の下から青いロープを取り出す。SM自縛ショーで使う柔らかで弾力のある太めの縄だ。正座した進太の後ろに睦月が屈み込み、細い両手を裸の背中にねじ上げ、進太を厳しく縛り上げてしまった。

「Mが戻るまで、進太はこうして縛っておく。トイレも使わせない。みんなMのせいだ。子供がかわいそうなら早く戻ってくるんだね」
口元に薄笑いを浮かべ、Mを見上げて声を高めた睦月の顔は、とても母の顔には見えない。敵対者に哀れな人質を見せつける卑怯者と変わりがなかった。あ然としたMの口元に力無い苦笑が浮かぶ。
「睦月、正気とは思えないわ。進太はあなたの子よ。まるで敵の子供のように責め苛んでいるわ」
静かな声で抗議するが、睦月は動じようとしない。相変わらず薄笑いを浮かべ、進太の剥き出しの二の腕をつねった。
「ヒィー、M、お願い、早く帰ってきて」
進太の悲鳴と睦月の高笑いが重なり、十畳のリビングに陰惨な臭気が満ちる。
「きっとMは、急いで帰るでしょうよ」
悲惨な光景に背を向けたMに、睦月の声が追い打ちを掛けた。
Mは歯を食いしばって短い廊下を渡り、玄関に出る。これ以上、異常な母子に翻弄されてたまるものかと決心して靴を履く。足を通した黒いパンプスの隣に、汚れきって穴の開いた進太の運動靴が並んでいた。こわばったMの頬を涙が伝う。悲しすぎる母子が、Mを底なしの沼に引き込むのだ。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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