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8.デザイナー(3)

「金属の縄で縛られるなんて、睦月もかわいそうね。さぞ痛いでしょうね」
つい陳腐な感想がMの口に上った。縛られ慣れた身体が言わせたものだ。慌てて祐子の顔を見る。祐子はうつむいていた。
「いいえ、金属の縄と言っても麻縄と変わりませんよ。かえってしなやかかも知れない。触ってご覧なさい」
大久保が答えて中腰になり、長さ十メートルほどの縄の束をMに手渡す。手にした金属の縄は重く、素材が分からないほど無機質な触感がした。まるで、縛られる者の肌の一部となって、ねっとりと深部まで拘束してくるような感じだ。
「股間を縦に縛ったって大丈夫ですよ。陰部が傷つくこともない。Mさんも縛られることがお好きなんですってね。祐子に聞きましたよ」
Mはしばし、あ然としてMの目をのぞき込む青年の視線を受け止めた。黒い瞳の奥に見慣れた官能の炎が揺れている。祐子に求めきれないものをMに求める、男の理不尽な目だ。
「ええ、素っ裸で縛られるのが好きよ」
大きくうなずいて、平然と答えたMの声が部屋に響いた。居たたまれなくなって祐子が立ち上がった。大久保は背筋を伸ばし、Mを見つめたまま言葉を続ける。
「Mさん、ありがとう。今夜は最高に楽しかった。ぜひ、睦月さんと一緒に縛られ女郎の役で芝居に出て欲しいな。沢田さんも喜んで、また脚本を書き直しますよ。これで僕は帰ります。お邪魔しました」

Mの返事も聞かずに大久保が立ち上がり、深々と頭を下げてからドアに向かった。
「玲、待ってよ」
鋭い声で祐子が呼び掛け、大久保が振り返る。
「いいよ祐子、送らないでくれ。独りに耐え兼ねたら、いつでも僕を呼んでくれ。すぐに飛んでくる。でも、僕は祐子を誘わない。僕は孤独に強い」
大久保の鮮明な声が響き、ドアの閉まる音がした。突っ立っていた祐子の膝が崩れ、ソファーに腰が落ちる。静けさの満ちた部屋に遠雷の音が聞こえてきた。

「祐子の作った縄はいい縄だわ。私にも作ってくれるというの」
天井のライトを重々しく反射する金属の縄を見て、Mが優しく尋ねた。
「今夜のMは意地悪だわ。ちっとも私の気持ちを考えてくれない」
Mの問いに答えず、なじる調子で祐子が言った。
「どうして私が、祐子の気持ちを探らなくちゃいけないの。言葉なんて当てにならないものよ。明日でなく今夜訪ねてきたことを言ってるのなら、祐子も合意したことだわ」
「違うわ。そんなことは言ってない。今夜のMとは話が擦れ違う。きっと、玲にMの過去を漏らしたせいね」
「それこそ、祐子の邪推というものよ。祐子が何を話しても私は気にしない。祐子がイメージした私の姿がどう語られようが、私が責任を取ることはできないわ。すべてを祐子の人格が決め、責任を取ればいいことよ」
「M、突き放さないで。修太のお父さんの電話を受けた私の身になってみてよ。つらい、本当につらいの。みんな死んでしまい、残された私が全責任を負うのよ。残酷だわ。どうして私が、修太が残していった子供の話を小父さんにしなければならないのよ。自分の孫なんだから、黙って鉱山の町に連れていけばいい」

祐子が興奮して話す内容は、いつしか進太のことに移っていた。自分の感情が整理できない、相変わらずの祐子がMには悲しい。努めて冷静な目で取り乱す祐子の顔を見つめた。祐子の目尻から涙がこぼれ落ちた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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