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10.面談(5)

「坊や、山地に露天風呂でもできたのかい」
運転席から身を乗り出し、チハルがぶっきらぼうな声で言った。
「何だ、Mじゃないのか。面白くもない」
素っ裸の子供がふてくされた声で言って首をすくめた。チハルの表情がまた緊張する。
「えっ、もう一度言ってみな。Mってのは、これと同じ、赤いMG・Fに乗っている女かい」
黙ってうなずく裸身をチハルが手招きした。
「面白いね、素っ裸なのがいいよ。さすがにMの友達の坊やだ。参ったね。さあ、車に乗りな。乗せていくよ。どこへ行くんだい」
親しげに話し掛けたチハルに誘われ、震える裸身が近寄ってくる。
「俺は進太。歯医者へ行きたい」
ひときわ高いボーイ・ソプラノで答え、進太は素早く助手席に座った。雨で濡れた髪から肩にかけて水が滴っている。全身に鳥肌が立ち、寒さに歯を鳴らしていた。チハルはヒーターを入れ、着ていた麻の白いジャケットを脱いで進太に手渡す。
「いいよ。汚れてしまうよ。僕は裸でいい」
ジャケットを押し返す進太の口調が、やっと年相応の話し振りに感じられた。チハルの口元にまた笑みが浮かぶ。

「黙って着なさい。素っ裸では私に失礼だろう。いくら小さくても、女の前でチンチン丸出しでは先が思いやられる。まあ、進太の友達のMも、素っ裸で股間丸出しのスタイルが好きだったが、真似しない方がいいよ。私はチハル。祐子の友達だよ。祐子を知っているだろう」
チハルの言葉で進太の頬がポッと赤く染まった。押し返したジャケットを手元に引き寄せ、股間から胸を覆った。下を向いたまま照れ隠しのように早口で答える。
「祐子は良く知ってるよ。チハルさんが祐子の友達なら、Mとも友達だね」
「さんは要らない。チハルでいいよ。それから、Mは友達ではない。さあ家に送ろう」
チハルの厳しい声に進太が黙る。チハルは無造作に後ろを振り向き、MG・Fをバックさせてコンビニエンス・ストアの駐車場に入った。
「だめだよ。僕は家に帰れない。山地の歯医者に行くんだ。お願い、連れていってよ。お願いだよ」

進太の泣き声が深閑とした駐車場に響いた。あまりの激情に驚き、チハルは進太の横顔をのぞき込んだ。
「山地の歯医者って、ピアニストの実家の蔵屋敷のことかい」
「そうだよ。死んだピアニストのお父さんさ。僕のお父さんも死んだけど、ピアニストと一緒に住んでいたんだ。だから、きっと歯医者は僕を泊めてくれる」
進太の言葉は遠い昔の記憶をチハルの胸に甦らせた。思い出したくはない記憶だが、整理できないまま捨て置いていた記憶が、堰を切ってチハルの胸中に溢れる。
「私は、進太の両親もきっと知っている。誰なんだい」
「修太に睦月」
進太がぽつりと答えた。チハルの脳裏に一人で立ちつくす、修太の青ざめた姿が浮かび上がる。思えばいつも、修太は深刻で苦しそうな表情をして、チハルの前に現れた。目の前にいる進太の目から口元にかけては、まるで修太と瓜二つだ。チハルは大きくうなずき、山地に向けて車を発進させた。急に進太の表情が輝き出す。

チハルはいわくありそうな進太をドーム館に泊めることに決めた。蔵屋敷に行っても歯科医はいない。祐子から聞いた話では、歯科医の妻が昨年交通事故で死に、歯科医は市に移り住んでしまったはずだった。

様々な人たちの思いが籠もる山地の谷に、新世代の進太と泊まるのも一興だとチハルは思った。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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