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11.祭り(5)

「ここから入るんだよ」
一声言って駆け出していった進太がドアの前でチハルを振り返り、泣きべそをかく。
「畜生。ここも鍵がかかっている。鉄のドアだから、こじ開けることもできないよ」
青い水銀灯の光を浴びた泣き顔を見ながら、チハルは平然とドアの前に立った。確かに鉄製の強固なドアだが、錠は玄関ドアと同じシリンダー錠だ。
「進太、管理棟はどの辺にあるんだい」
にっこり笑いながらチハルが尋ねた。進太の表情がまた明るくなる。
「あの小さな丘の向こうだよ。キリン舎は管理棟から一番遠くにあるんだ」
期待のこもった声で、即座に進太が答えた。チハルが黙ってドアの前にひざまづく。黒いデイバックから今度は重そうな工具を取り出した。金工用の充電式ドリル・ドライバーだった。十五・六ボルトの最強力な機種だ。チハルは空を仰ぎ、轟き続ける雷鳴を確かめてから、ドリルの先を無造作にノブの中央の鍵穴に当てた。引き金式のスイッチを握ると、途端にかん高い音が雷鳴に混じった。

進太はチハルの背中に立ちつくし、脅威の眼差しでしなやかな肩を見下ろした。チハルの精悍な姿態から、荒々しい暴力のにおいが立ち上がっている。何かしら懐かしい甘い香りが雨中に満ち、進太はむせ返る思いがした。金属を断ち切る騒音はすぐやみ、ノブの中央にポッカリと穴が通った。シリンダーを破戒された錠はもう役立ちはしない。
「ドアも開いたよ」
つまらなそうな声で言って、チハルが進太を振り向いた。
「凄いね。チハルは何でも壊してしまう。そのデイバッグは魔法のバッグだ」
感極まった声で進太が叫んだ。チハルは答えずに進太に場所を譲る。
「魔法のバッグではない。大人は子供と違い、考えられる限りの準備をして来るものだ。いずれ進太にも、きっと分かる」
チハルは心の中で言って立ち上がった。喜びに震える進太の顔を見つめる。これから先は進太が仕事をするのだ。チハルに見つめられ、緊張した表情に戻った進太がそっとドアを開けた。暑く湿った空気とすえたような獣のにおいがドアの奥から流れ出し、二人の全身を覆った。

ドアの先は広い飼料置き場だった。左手の通路の先がぼんやりと明るくなっている。進太は慣れた様子で真っ直ぐ通路を進む。チハルが遅れて後に従う。通路の先から濃厚な獣のにおいと、うごめく気配が漂ってくる。チハルは慎重に歩みを進めた。通路を抜けると、突然開けた五メートルもある天井の下に、3頭の巨大な生き物がたたずんでいた。常夜灯の鈍い光を浴びた黒と黄の網目模様が、ひときわ新鮮にチハルの目を打った。すぐ前にいる一番背の高いキリンが大きく鼻を鳴らし、蹄で鋭く床を蹴った。大きな音が飼育舎に響き渡る。サクタロウに違いないとチハルは思った。一瞬背筋を恐怖が走った。妻のキサラギと、息子のキリタロウを守るためにサクタロウがチハルを威嚇したのだ。

「サクタロウ怒らないで。この人はチハル。僕の友達だよ。怒らないで」
進太がはっきりした声で呼び掛けると、サクタロウが長い首を回して中央にいる進太を見た。チハルはその隙に、鉄扉の前まで音を立てないように注意して走った。扉の向こうは二人が歩いてきた車両専用道路だ。
「進太、キリンが警戒を解くまで、私は石になる」
短く進太に言ってから、チハルは三頭のキリンを改めて見上げた。サクタロウの身長はどう見ても4メートルはある。少し後ろで子キリンを庇うように立つキサラギも一回り小さいだけだ。2歳になったばかりのキリタロウさえ3メートル近い。チハルは首をすくめてからTシャツとパンツを脱いだ。素っ裸になると妙に落ち着いた気分になる。キリンと言ってもサクタロウは男だ。種が違っても雄が雌を嫌いな道理はない。たとえキリンでも、雄と接するときは裸に限ると思い、引き締まった肌に浮いた水滴を指先ではじいた。

つんと上を向いた二つの乳首の根元で、金色のリングが怪しく光った。リングはきれいに陰毛を剃り上げた股間でも揺れた。床に座り込んで目を閉じると、チハルの脳裏にボギーの姿態が浮かび上がる。ボギーの大きなペニスの先にもチハルと同じ金色のリングがぶら下がっている。二人で性器にピアッシングしたのは去年の夏だ。ボギーと離れ、日本に来てからまだ二日しか経っていない。ロサンゼルス郊外の広大な屋敷で毎週末、二人は誰憚ることなく素っ裸で戯れるのだ。燦々と日の照りつける広々とした芝生で、チハルは乳首のリングに繋いだ鎖をボギーに曳かれ、素っ裸で緑の芝生を走り回る。股間のリングを曳かれるときは本当につらい。ユーモラスに股間を突き出し、息を荒くして一心に走る。エネルギッシュなボギーの走りについていくのは並大抵のことでない。そして、ボギーのペニスのリングと、チハルの股間のリングを繋いで走るときの快感。ああ、なんてダイナミックな性なんだろうとチハルは思う。それに比べ、この国は常にせせこましすぎていると嘆きたくなる。しかし、進太のアイデアは違う。十分すぎるほど壮大なスケールだと確信し、目を開いた。間近に見上げたキリンの威容は、背筋が寒くなるほどチハルを威圧した。小さな進太がこの巨大な生き物の背に乗る姿を想像すると、涙が出るほどの楽しさが込み上げてきた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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