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8.海辺の情景(2)

「お願い。殺して。死にたいのよ」
耳に飛び込んできた祐子の声は、たどたどしく聞こえました。でも、甘えは感じられません。言葉を選んで発声した理性の裏側に、絶望がかいま見えます。得られなかった死を乞う、執念が悲惨でした。
「進太、お願い」
もう一度訴えた裸身が、汀にうずくまりました。
「帰ろう。辛くても、生きろっていうことだよ」
陳腐なせりふが口を突きましたが、他に言葉を思い付きませんでした。三歩前に進んで、うずくまった肩に手を置きました。氷のような素肌の冷たさが掌から胸の底に伝わってきます。打ち寄せる波が足を濡らしました。祐子の脇に手を差し込んで立ち上がらせます。豊かな乳房が手の中で弾みました。突然、胸がきゅんとなりました。祐子の肉体に無関心だったことに気が付きました。とたんに頬が熱くなります。視線を落とすと、剃り上げた股間で可愛らしい性器が光っていました。死など必要ない肉体です。抑圧した性を解放しろと怒鳴りたくなります。
僕の手の温もりが、冷え切った祐子の心に伝わることを念じて抱き締めました。

「いやっ、死にたいの」
一声叫んだ祐子が手をふりほどき、身を翻しました。驚くほどの感覚の鋭さです。僕を一瞥した目の底に黒い炎が揺れていました。
ふらつく足で波を蹴って、祐子は晋介に迫ります。後ずさる晋介を追って砂浜に身を投げ出し、足元に縋り付きました。なりふり構わぬ取り乱しようです。砂にまみれた裸身が醜く見えます。
「お願い。殺して。死にたいのよ」
同じ言葉で訴えました。玩具をねだって泣きわめく幼児にだって、それなりの自制があります。素っ裸で子供にねだる祐子は論外です。最悪の展開でした。ずぶ濡れの裸身に縋り付かれた晋介の顔に当惑の色が浮かび、瞬時に怒りの色に変わりました。

「よせよ、汚いな。スニーカーもパンツも潮でべとべとだよ。迷惑かけずに一人で死んでくれ。殺したくなるぜ」
叱声が飛びました。尊厳を無くした祐子を完璧に見下した言い振りです。
「殺してよ」
即座に祐子が答えました。売り言葉に買い言葉です。夕日を浴びた晋介の赤い顔が、怒りでなお一層赤く染まりました。
「大層な騒ぎはみっともねえよ。茶番は終わりだ。すぐ望みどおりにしてやる。でも、死ぬってことは苦しいことだ。後悔の声は聞かないよ」
最後通牒のように、ゆっくり言った晋介の顔を祐子が見上げました。見開いた目が、挑戦的に輝いています。
「いつだって、私は苦しいのよ。心の苦しさに比べれば、肉体の苦痛なんて何ほどのことはない。死の希望さえかなえられれば、私はいい」
「上等だよ。売れるほどの希望を俺が背負わせてやる。進太さん、カメラを頼むよ」
やけに明るい声で言って、晋介が祐子を蹴りつけました。白い裸身が濡れた砂浜にうつ伏せに倒れました。砂まみれの丸い尻が、淫らにうごめいています。目を反らせた僕にライカM2を預け、晋介はゴミの山に歩いていきます。黒く汚れた太い麻縄の束を拾い上げ、片手にぶら下げて戻ってきました。

「さあ、過酷な死を楽しませてやるよ」
横たわった祐子に声をかけて両腕を掴みました。そのまま裸身を引きずって、満ち潮が打ち寄せる汀へ入っていきます。
二メートルの間隔で横に並んだ杭の前で晋介が足を止めました。打ち寄せる波が絶え間なく杭の根元を洗っています。晋介が祐子の前に屈み込みました。左右の手首を二本の麻縄で厳重に縛り上げます。両手を横に広げさせ、それぞれの縄尻を左右の杭の根元に縛り付けてしまいました。祐子はもはや、どう足掻いても砂浜から身体を起こすことはできません。汀にうつ伏せになった顔を、寄せては返す波が洗っていきます。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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