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8.海辺の情景(6)

「もう、やってられないや」
横から声が響き、晋介が立ち上がりました。さすがに辺りは暗くなっています。ほのかに白い水平線の上に、真ん丸な月が上がっています。大潮の絶頂なのでしょう。相変わらず波の音が轟き、男女の睦み合う声が混じってきます。月の光を浴びた二人は、重なり合って腰を使っています。もう三回も絶頂を極めたのに、その度に体位を変えて挑み合っています。僕も晋介の言葉に同感でした。
「まったく、大層な騒ぎで恐れ入ったよ。死にたかった連中が打って代わって乱痴気騒ぎだ。もう俺は、コンテストの会場に行くよ。進太さんはどうする」
晋介の嫌みな言葉にも、もう笑って答えられます。今日一日で一切が変わったのです。最高の宵でした。

「僕は、最後まで見届けてから祐子と帰る。服も着替えなきゃならない。明日の朝一番に会場で会おう。僕も晋介の作品が見たい。約束するよ」
明るい声で答えました。晋介の苦笑が帰ってきます。コンテストの会場は午後八時まで開いていますが、この調子では、祐子と霜月のセックスは閉会近くまで続きそうです。焼け死んだ校長さんの始末もありました。僕は残るしかありません。
「じゃあね、進太さん、明日はきっとだよ。会場は、午前十時に開くからね」
念を押した晋介が、ライカを揺すりながら砂丘を登っていきます。白い月の光がスリムな身体を大きく見せていました。


闇が海岸を覆い、白々とした月の光が波に反射しています。
濡れた服から、さすがに肌寒さが伝わってきました。眼下のマットレスに寝そべっていた二つの裸身が、ようやく起き上がります。二人とも足を投げ出して寄り添って座り、霜月が左手で祐子の肩を抱きます。祐子の細い首が霜月の逞しい肩にもたれ掛かりました。二人とも無言のままです。素っ裸でいても、寒さを感じない様子です。見下ろしている僕は、風景に溶け込んでしまったような気がしました。いい加減で審判の役回りを演じようと思います。寒さに身体を揺すってから、小さく咳払いをしました。

「祐子、風邪を引くよ。もう帰ろう」
月並みな言葉で呼び掛けてみました。二つの裸身が一斉に振り返り、僕を見上げました。二人とも満ち足りて、落ち着いた顔をしています。セックスが痴呆を誘発する症例を見る思いがしてしまいました。

「あら、進太。まだいたのね。私は帰らないわ」
祐子が答えました。波の音に乗った、歌うような響きでした。しかし、内容は衝撃的です。真意を問いたださなければなりません。
「だって、ホテルをリザーブしたままだよ」
「いいえ、ホテルに帰らないだけじゃなくて、市にも帰らないのよ。私は霜月と一緒に、海炭市に住む」
ゆるぎない答えが返ってきました。祐子の横で霜月の裸身がビクッと震えました。すかさず僕は切り込みます。
「よしなよ。霜月は弥生を忘れられない。今だってきっと、弥生を思い浮かべながら、祐子を抱いたんだ」
口を突いた言葉は残酷でした。霜月が祐子の肩から腕を外しました。どうやら図星だったようです。沈黙が落ちます。月の光が二つの裸身を照らしています。巨大な体躯の横にある祐子の裸身が、やけに小さく見えました。目頭が熱くなってきました。
首を振って立ち上がった祐子が、僕を睨み付けます。
「それが、なんだって言うの。私の身体の中で、霜月は四回も絶頂を極めたのよ。進太も一部始終を、そこで見ていたでしょう。だいじょうぶ、私がきっと、弥生を忘れさせてみせるわ」

断言した祐子は、もう死を求めていた祐子ではありません。大きく開いた股間から精液が滲み出ています。月光に光る粘液は太股を伝い、ふくらはぎへと回っていきます。性のエネルギーを充填した肉体が、更なる官能を求めているように見えます。死への願望を断ち切らせた程のエネルギーなのです。僕は思わずたじろいでしまいました。霜月が、祐子の裸身を見上げて立ち上がりました。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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