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9.旅立ちの予感(1)

ホテルのツインルームで、僕は一人で目覚めました。隣のベッドはメイクされたままです。晋介はホテルに戻らなかったようです。
手荷物一つない晋介は、どこに泊まっても不自由はありません。けれど、始めからいなかったような雰囲気もあります。ツインルームに一人で泊まっていて、怖い夢にうなされてしまった。目覚めてみたら夢と分かり、当惑して辺りを見回している。そんな気分になる寝覚めでした。
寝ぼけ眼に映る無人のベッドが、不審と不安で揺れています。海炭市に着いた夜から続いた異常な出来事は果たして、僕が実際に体験したことだったのでしょうか。

衝撃的な疑念が脳裏を走りました。慌てて毛布をはね除け、起き上がります。厚手のカーテンの隙間から日の光が射し込んでいました。テレビの上の時計の針は午前八時を回っています。改めて隣のベッドを見下ろしました。背筋を肌寒さが掠めていきます。晋介の不在がもたらした不安に、全身が震撼しました。ブルッと身体が震えます。思わず裸の背を丸くして腕を組み、うなだれてしまいました。温かな素肌の感触が手に伝わってきます。股間で勃起したペニスが僕を見つめています。てらてらと光る亀頭の先を見つめていると、過激な性の感触が甦りました。
打ち寄せる波が、白い尻の割れ目で砕け散ります。海水に呼吸を断たれた祐子が、全身を震わせて苦悶します。陰部が強い力で収縮し、このペニスを強烈に締め付けたのです。その瞬間、祐子が官能を求めたと、僕は信じました。

死を踏み越えて再生した祐子。そして、人型に燃え上がって死んだ校長さん。そのすべての光景が脳裏に渦巻きました。でも、あれほどの事実の集積が、一日のうちに本当に起こったのでしょうか。
圧縮された記憶がツインルームに流れ出していきます。身体全体ががらんどうになってしまう恐怖が、喉元まで込み上げてきました。

素っ裸でシャワールームに跳んでいって、扉を開きました。真っ先に脱ぎ散らかした服が目に入りました。汚れたスニーカーに素足を入れると、濡れた感触が不快でした。海水が染み込み、砂にまみれた布地が事実の存在を実感させてくれます。
夕べ、疲れ果ててホテルに帰り着いた僕は、シャワーを使うやいなや、ベッドに潜り込んでしまったのです。なにかしらホッとした気持ちになりましたが、まだ安心はできません。証人となる祐子も晋介もいないのです。デイバッグに入れてきたジーンズと白いトレーナーに袖を通して、部屋を出ました。

フロント係の老人は、くどくどと理由をこじつける僕に、笑顔で祐子の部屋の鍵を差し出しました。やはり、部屋はリザーブしてあったのです。はやる気持ちを抑えて、慎重に祐子の部屋のドアを開きました。一目で見て取れる狭いシングルルームは完璧にメイクされていて、使われた形跡がありません。急いでクロゼットを開けると、見慣れたボストンバッグが置いてありました。祐子が海炭市にいたことは間違いありません。圧縮された記憶はすべて真実でした。新しい朝が始まっていたのです。

約束どおりに写真コンテストの会場に行けば、晋介に会えると確信できました。午前十時が待ち遠しくなります。
安心すると同時に、今度は祐子に腹が立ってきました。校長さんの死体の始末はできたのでしょうか。目の前のボストンバッグの処理も考えなくてはなりません。異常な記憶の集積した海炭市で、再び祐子を訪ねる気には到底なれません。散々思案したあげくに、宅配便で山地のドーム館に送ることにしました。
ようやく気が晴れた僕は、一切の荷物を持って食堂に向かいました。晋介が泊まらなかった部屋を見たくなかったし、スクランブル・エッグと温かいパンを、たらふく食べたかったのです。


海炭市のメインストリートの角に、写真コンテストの会場がある百貨店がありました。ビルの側面に設置された電光掲示板が、写真展の開催を赤い文字で流し続けています。
会場は、九階の催事場です。僕は、エレベーター係の制服を着た女性に階数を告げました。他に客はいません。開店早々の、平日の十時では無理のないことでしょう。エレベーターは真っ直ぐ会場に直行しました。

会場の入口にしつらえられた派手なアーチに「日本一の夕日・写真コンテスト」と大書した看板がかかっていました。文字の色は昨日海岸で見た夕日と同様、血のような赤です。肩をすくめて会場に入った瞬間、圧倒的な数の夕日に迎えられました。百点近い写真があるのでしょうか。暖色系の色彩のオンパレードです。鮮やかすぎる色合いが目にしみます。けれど、最初の迫力に慣れてしまうと、夕日にそれほどの違いはありません。ゆっくり鑑賞する気もなくなり、周囲を見回してみました。
だれ一人いない会場の奥まった位置に、黒々とした作品が展示してあります。赤・黄・オレンジが氾濫する会場の中で、その作品はひときわ異彩を放って見えました。晋介の写真に違いありません。足早に、作品に近寄っていきました。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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