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4 渓谷(3)

「えっ、産廃処分場反対のために、人柱にでもなるつもりか」
我ながら陳腐な言葉が口を突いた。
「そんな者にならないわよ。ちょっと想像力が過剰なんじゃない。いくら私が裸で縛られているからといって、ご都合主義に流れられたのでは、たまったもんじゃないわ。もっと現実的に、遊び心で考えてくれないかしら」
「すまん」

また謝った陶芸屋が修太を呼んだ。背中のザックからウインチを取り出し、赤錆びた鉄橋の一番太い鉄骨に据え付ける。
「修太は下に降りてMをサポート」
勝手知った遊び場の斜面を、飛ぶように修太は下って行った。
「足首を厳重に縛って」とMが訴える。
「タオルを巻かなくてもいいのだろうか」
「そんな物、持ってこないでしょう。あなたは、自分の渓谷に素っ裸で吊される陽子さんの姿でも思い描いてなさい」
Mの言葉で吹っ切れたように、大きくうなずいた陶芸屋が足元にうずくまる。用意した黒縄を四重にして足首を縛り上げた。その四本の縄を束ねてウインチのフックに繋ぎ止めた後、冷静な口調で鉄橋の端に腰掛けるように指示した。
冷たい鉄骨に座ったMの尻を冷気が舐める。まだ、引き返せると思ったがプライドが許しはしない。

「行きます」
短く陶芸屋に告げたMは、前のめりになって渓谷へ身を躍らせた。
一瞬ふわっと宙に舞った裸身が瞬く間に落下し、両足首を緊縛した四本の麻縄で空中に支えられた。
全身を衝撃が襲い、激痛が足首から脳へと駆け下りる。
激しいショックで失禁し、胸に伝い落ちる生温かい尿の感触で冷静さを取り戻した。

逆さまになった風景が馴染まず、首を起こして上を見ると、意外に近い所に鉄橋があった。心配そうに身を乗り出した陶芸屋の見開かれた目と、目が合った。無理して微笑みかけてやると、やっと安心した表情が戻った。かわいい人、とMは思う。

「大丈夫よ。ずっと下まで降ろして」
陶芸屋がうなずくのを見てから頭を下ろした。
世界は相変わらず逆立ちしている。山が、谷が、樹木が、渓流が、すべてが逆立ちしてMを迎えている。
感覚が慣れると眼下に遠く、渦を巻く清冽な渓流が流れ下っているのが見えた。その風景が不規則に揺れる。身体も頻りに、頼りなく揺れる。意志に関係なく前後左右に揺れ動く感触は、自分の肉体を自分で制御できない頼りなさと不安を、強烈にMに教えた。まるで日常の暮らしに隠された秘密を、まざまざと見せ付けられたみたいだ。

「ああ、やっぱり、何ほどのことはない」
声に出したとき、身体が下がっていくのが分かった。陶芸屋がウインチの操作を始めたのだ。
渓流のドウドウという岩を噛む音が、Mの間近で響いている。長く落ちた髪の先を急流が洗っていくのが分かる。時折岩にぶつかり、跳ね上がった飛沫が顔や乳房にまでかかった。
足首に痛みは感じなかったが、長く延びた銀色に光るワイヤーの先を支点にして身体全体が揺れ動いた。川岸の大きな岩の上に、修太が逆さまになって立っているのが見える。感動した眼差しでみつめる視線がくすぐったかった。

谷を渡る冷たい風が容赦なく裸身をなぶって川下に下っていく。風は剥き出しの股間で陰毛をなびかせ、長い髪を揺すっていった。ちょうど、渓谷のまっただ中に身体があり、その肉体はもう、渓谷の主要な一部になったと、ふっと身体を離れていく意志が肉体に告げていった。

ぼんやりと霞む視界に、鮮やかな光景が浮かび上がる。渓谷と一体となった逆立ちの裸身が、瞬く間に産業廃棄物で埋められていく。瓦礫の山に埋没した裸身が空気を求めて喘いでいる。息苦しさが身体全体を被ってしまい、渓谷が身悶えした。
真っ暗な視界の中で産業廃棄物に埋め尽くされるもう一人の裸身に、Mは必死で追いすがろうとした。鼻の奥でツンッと鋭い刺激臭がして、頭が痛んだ。


陶芸屋の目の下で、逆立ちした裸身が揺れている。
きつく揃えた足首を緊縛された二つの足裏が、ピンク色に見える。内に折られた足指が時折、そっと外に開く。かかとの後ろに丸い尻が見え、尻の割れ目が引き締められたり緩んだりして揺れる。風が立つと長い髪がなびき、渓流に踊っていた。陶芸屋は目を見開いたままじっと、飽かずに揺れ動く尻を見つめ続けた。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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