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- 2011/01/26/Wed 15:00
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- 第3章 -廃鉱-
「キャッ」という悲鳴がカンナの口を突く。
自信を持ったMは、ライトを左手に持ち替え右腕でカンナの首を抱きかかえて締めつける。思いの外カンナは強くはないと思った。
腰を曲げた姿勢でカンナを立ち上がらせ、首を絞める右腕に力を込めてカンナの抵抗心を奪う。左手を挙げて坑道の奥をライトで照らしだした。
五メートルほど奥に子供たちの姿が見える。寄り添って立ちすくんだ二人は素っ裸に剥かれていた。
思わずカンナの首を絞めた右腕に力がこもる。腰を折って尻を突きだしたカンナが腕の下で「ヒー」と呻いた。
「もう大丈夫、すぐ助けてやるわ」
二人に大きく声をかけて、カンナを引きずりながら近付いていく。
立ちすくむ子供たちの二メートルほど前の枕木の上に、ぽつんと置いてあるランタンが見えた。蛍光灯を光源にした電池式のランタンだった。マグライトを持った左手が自由になると思ったMは、カンナの首を右腕で締め上げたまま屈み込み、ランタンを点けようとした。その僅かな隙をカンナが突く。
カンナは身体を外側にひねって地面を蹴り、横に倒れ込んだのだ。不安定な格好のままカンナに倒れ込まれたMは、首を抱え込んだ姿勢で後ろ向きに地面に倒れ落ちた。運悪く後頭部が枕木に当たり、鋭い衝撃と痛みが脳に渦巻いた。
薄れかかった意識の隅で、咳き込むカンナの喘ぎと、カチャカチャ鳴る金属音を聞いた。
両腕を背中に回される痛みで意識が戻ったときには、カチッという音とともに後ろ手に手錠をかけられてしまっていた。
断然優位に立ったはずのカンナは、相変わらず苦しそうに咳き込んでいる。込み上げる吐き気に耐えて喘ぎ、落ちていたマグライトを拾う。そのまま入り口に向かって、右足を引きずって歩いて行く。
意識のはっきりしてきたMの視界に、遠ざかっていく明かりが見えた。
よろける足で起き上がったMは、後ろ手錠のままカンナを追った。何度も枕木につまずいて転び、胸と肩を手酷く打った。あと五メートルの所まで追い縋ったMの目を、まぶしい夏の光が打った、瞳を打つ痛みで立ち止まったとき、鉄の潜り戸が嫌な音を立てて閉じられ、闇が戻った。続いて、錠のおろされる金属音が聞こえた。
慌てて戸の前まで進み、渾身の力を込めて肩で押すが、錠の外れる可能性は皆無だった。
しばらくして、遠くにベンツのエンジン音が聞こえ、また静寂と闇が戻った。
「出口なしってわけね」
仕方なく笑ってみたが、優位に立ったカンナがなぜ坑道を閉ざしただけで去ってしまったのか分からなかった。
カンナは産廃処分場に反対している住人の子供を狙って誘拐し、監禁したのだ。皆殺しにするのでない限り、後は無体な要求が待っているだけだと思われた。それだけに修太の姿が見えないことが不安だった。
「怖いよう、寒いよう」
また光男の声が聞こえた。
「待っていなさい。今行くわ」と大声で闇に叫んで、Mは漆黒の中に慎重に歩を進めていく。中央に敷かれたレールの跡を、枕木につまずかないようにゆっくりと歩いて行った。
「怖いよう、暗いよう」と泣き声になった光男の声を距離の頼りにして進む。時折「大丈夫よ、すぐだからね」と大声を出して子供たちを元気付ける。
それにしても祐子は、こんな状況でも人を頼らない。自閉症といっても恐怖は感じるのだろうと思い不憫になる。
光男の泣き声がすぐ近くになった。足が枕木に触れる度に一本一本慎重に足で探る。さっきの格闘で転がらなかった限り、そろそろランタンがあるはずだった。耳の間近で上がる光男の悲鳴が煩わしい。