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8 通洞坑-1-(2)

突き出た山の端を回り込めば通洞坑の入り口という所まで、Mは息せき切って走ってきたが一行の姿はなかった。
石をアーチ状に組んだ坑口の前まで行ってみたが、対岸に止まった白いベンツが見えるだけで人の姿はない。

辺りを見渡し、上流に向かったのかと思ったとき、坑口を閉ざした赤錆びた鉄扉の潜り戸の部分に微妙なずれを見出した。下ろされていたはずの錠も見当たらない。
即座に鉄の潜り戸を開けて踏み込もうとしたが、すんでの所で思いとどまった。当然中は真っ暗闇のはずだった。Mにライトの用意はない。一行が坑内に入っているとすれば、闇に目が慣れたカンナに分がある。今日の服装も暗闇では不利と思われた。Mには珍しく、白のタンクトップにホワイトジーンズという姿だった。おまけに帽子も靴も白だ。

「ついてないな」とつぶやき、鉄扉の前にうずくまって目を閉じ、中の様子に耳を澄ませた。
二分間ほどそのままの姿勢でいたが、中からは物音も聞こえてこない。やはり上流の方に行ったのかと思ったが、入り口の錠が外れた通洞坑をチェックしないわけにはいかない。
Mは姿勢を低くしたままそっと、辛うじて身体が通る程度に潜り戸を開け、素早く身体を滑り込ませた。前方に広がる漆黒の闇の中に、一瞬ポッと光る明かりが見えたと思ったが、すぐ闇に包まれてしまった。

熱く焼けた肌をひんやりとした空気が包む。思ったより広く感じる坑道には、意外に新鮮な空気が流れていた。各所に外に通じた空気抜きがあるに違いない。坑道の奥からチョロチョロと水の流れる音が聞こえてくる。地下水が流れ出しているのだ。

闇の奥から、じっと息を凝らしている人の気配だけが不気味に伝わってきた。静まり返った闇が、張りつめた緊張感さえ運んでくる。
Mはカメラを置き、側壁に身を寄せて屈み込んだ。

入り口からぼんやりと射し込む光で、岩盤に打ち込まれた太い坑木の列が見える。坑木は天井にも水平に渡され、向かいの岩盤から突き出た垂直の坑木で支えられている。まるで鳥居のような坑木の列が、ずっと奥まで続いているらしかった。視線を落とすと、黒い地面の中央に、トロッコのレールの跡がまっすぐ奥へと続いている。枕木だけを残し、レールは撤去してしまっている。等間隔で続く枕木が肋骨のように見えた。
意外に良く見渡せる視界が、M自身も暗闇の中から見通されている危険に気付かせた。身を屈めたまま音を立てないように、そっと奥の闇に紛れ込んでいく。

しばらく進むと立ち止まって、全身で闇の奥の気配をうかがう。この動作を何回も繰り返すうち、果てしないと思われる闇の奥から、微かに地面を擦る靴音が聞こえてきた。身じろぎする人の波動も伝わってくる。

入り口から百メートルほど進んだはずだ。
屈み込んだ姿勢で更に進み、すぐ目の下にあるはずの白いトレッキングシューズさえ見えなくなったとき、意外な近さでかん高い声が上がった。

「怖いよう、怖いよう」
二度、子供の声が響いた。男の子の声だった。光男に違いない。坑道の割には残響が少ない。
聞き取りやすい声だったが距離がつかめない。Mは駆け出したくなる気持ちを押さえて、闇の奥をじっとうかがった。

しばらく間を置いて、再び「怖いよう、怖いよう」と光男の声が響いた。
突然、正面から目を貫く鋭い光を浴びせられた。少し外れた光の焦点が顔に向かって、修正される。その隙にMは、突き出た坑木の横に素早く張り付くが、光線は的確にMの顔を捉えた。
Mにとって幸いなことに、光線でMを捉えたカンナは、その優位さを冷静さに変えることなく、凄い速度でMに向かって突進してきたのだ。

向かってくる光線のまぶしさに固く目をつむったMは、カンナの動きにだけ精神を集中させた。屈み込んだままのMに、カンナの強烈な足蹴りが飛んだ。Mは反射的に倒れ込んで蹴りを避ける。
Mの肩があった位置で、固い坑木にカンナの蹴りが決まる。カンナは手にしたマグライトとともに地面に崩れ落ちた。すかさず倒れた身体にMがのし掛かり、ライトを奪い取る。頻りにライトを奪い返そうとするカンナの手を、マグライトの長い柄でしたたか打ちのめした。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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