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9 事務所(2)

慌てて立ち上がった産廃屋が、身体を折って嘔吐をこらえているカンナに駆け寄る。
「また具合が悪いのか」
いつになく優しく尋ねると、カンナが顔を上げる。痛みに耐えているのか、両目に涙が滲んでいた。
「長かった夏休みが終わってしまうんだ。きっと、全身の血が反乱を起こしたんだろう。強い抗ガン剤と放射線を使っても、いつまで持つか分からないと医者が言ったろう。休暇みたいなもんだって。一年続いた夏休みなんだから、文句は言えないよ。とにかくもう、時間がないんだ。このまま負けるわけにはいかない。今更ベッドの上で、仏様面している柄じゃないんだ。独りでもけじめてやる」

「分かった。俺も行こう。かつらを被れよ、秘書役らしくないぞ」
疲れ果てた声で産廃屋が応えた。
「もう、こんなものは要らない。秘書役はやめたよ、兄さん。また妹に戻してもらうからね」
汚らわしいものを見るように、手にした茶髪のかつらに目をやったカンナは、部屋の隅の屑籠に、そのままかつらを投げ入れてしまった。
壁に並んだロッカーを開け、赤い野球帽を目深に被る。

「これで十分よ。用意ができたわ。兄さんはいいの」
産廃屋の目尻に涙が浮かんだ。カンナに見られないようにロッカーを開け、大型のランタンとマグライトを出した。しゃがみ込んで新しい電池に入れ替える。
最下段の奥に手を伸ばし、平たい木箱を取り出す。
「持っていくの」
カンナが背中に声をかけた。無言でうなずき、木箱を開ける。
ずっしりとしたトカレフがガンブルーに輝いている。銃把を飾る赤い星が不気味だ。中国製の八連発自動拳銃、口径7・62ミリだった。
マガジンを抜いて弾丸が装填されていることを確かめる。黒いマガジンからのぞいた金色に光る薬挟の上に涙がこぼれた。

「用意はいいぞ」
力無く声を出した。
「妙に湿っぽい声を出すね。これから戦に行く風には見えないよ」
「大丈夫か。痛みはないのか」
産廃屋はつい聞いてしまう。
「つまらないことを聞かないでよ。体中が痛むんだから、冗談を聞いたって笑ってられないんだよ」
言った後、きつく唇を噛みしめる。
産廃屋の目頭がまた熱くなった。

「行くぞ」
無理に元気な声を出してカンナの前に立った。
照明機材と、さり気なくトカレフを入れたバックを肩にしてドアを開ける。

「何が白血病だ」
後ろからカンナの舌打ちが聞こえた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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