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- 2011/01/29/Sat 15:00
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- 第3章 -廃鉱-
「なんだって、ガキを誘拐したって。早まったことをしてくれたな。これから県知事に裏工作をしても、まだ間に合うんだ。代議士だって使える。大学から学者を呼ぶこともできるんだ。誘拐だと警察が入る。とんでも無いことになるぞ」
「そんな悠長な時間は、あたしには残っていないよ。どんなことをしたって、あたしたちの目的をかなえるんだ。負け犬なんかになってたまるか。もう、負け続けることには懲り懲りなんだ」
古ぼけたコンクリート造りの部屋に、産廃屋の低い掠れ声とカンナの興奮した高い声が響いた。
小さな窓を通して、くたびれきったクーラーの室外機のノイズが聞こえてくる。鉱山と町を繋ぐ道路を握するように建った、三階建ての事務所の二階だった。あと三か月で町が解体する予定のビルに、鉱山会社の親企業の許可を理由に産廃屋が事務所を開いて一年になる。
「とにかく考えが甘いんだよ。俺たちの仕事は遊びでやってるんじゃない。産廃処分場建設の認可を取ることが先決なんだ。その後はゼネコンのおえらさんたちが何とかする。俺たちはいわば、現地対策本部なんだから押すだけではだめだ。反対派なんて、認可を取ってから一人ずつ締め付ければいい。お前のやり方は後先が逆になってるんだ。百歩譲って誘拐するにしても、何で三人まとめてしない。やり方も中途半端だ」
「反対の要望書に署名したのは誘拐した二人の親よ。子供をネタに要望書を取り下げさせるのよ。もっと締め上げれば、子供を帰すことを条件に谷から追い出すこともできるかもしれない」
「とにかく甘いんだよ。それに、Mにやられて帰ってきたんじゃ目も当てられない」
聞いていたカンナの肩が怒りで震えだした。
「あの女も署名しているんだ。ちゃんと手錠をかけて閉じこめてきたんだから、たっぷり痛い目に遭わせて賛成の署名に変えさせればいいんだ」
ソファーに座って大きな足を前のテーブルに投げ出したまま、産廃屋がぼそっと言った。
「俺は気に入らないな」
テーブルの前の肘掛け椅子に座っていたカンナが、椅子を鳴らして立ち上がった。タンクトップに隠された薄い胸が激しく上下する。眉があったらへの字になって逆立ったに違いない。相変わらず左脇に黒いショルダーホルスターに入れたベレッタM92Fを吊っている。
「気に入るも、入らないもあるもんか。あたしはもうガキを二人誘拐して、Mと一緒に手錠をかけて通洞坑に閉じ込めてあるんだ。あんたがビビッてるんなら、独りで戻ってけじめてくるよ。もう、あたしには時間がないんだ」
顔全体を真っ赤にして叫ぶと両手を頭に上げ、茶色に染めたショートカットの髪を引きむしった。
乱暴な手の動きに応じて、頭髪全体がすっぽりと引き抜かれた。
無毛の頭皮が窓から射す夏の日差しに輝く。歪んだ口元からのぞいた白い歯茎に赤く、血が滲んでいた。