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5.友の肌合い(7)

二回目の夜の訪れとともに、冷たい闇を縫って神無月が裏の階段から忍んで来た。水道記念館の二階の会議室に低い声が響く。
「ピアニストの預貯金はすべて封鎖されていた。かろうじて二か所の郵便局のATMから二百五十万円を引き出せただけだ。もちろんビデオカメラが動いていたから、俺も今日から手配される」
テーブルの上に札の入った封筒を置いて、神無月が暗い声で先を続けた。

「オシショウ、ピアニスト、修太、睦月、弥生の五人は昨日のうちに指名手配された。今日の午前中には卯月の部下の月曜日と日曜日が逮捕された。もちろん微罪に引っかけた別件逮捕だが、死んだ水曜日と金曜日の交友関係から簡単に卯月の組織が洗い出された。今回の軍事部門はこれで壊滅した。あっけないほど脆いものだ。交友関係を辿られれば対抗しようもない。卯月も今日付けで指名手配されている」

テーブルに置いたランタンの光にぼんやりと照らしだされた室内に、そろって溜息が落ちた。昨夜と同様ドアの横で壁に向かい、素っ裸のまま反省のポーズを続けている弥生の裸身からも微かな吐息が洩れた。Mの豊かな尻に触れたまま、身動き一つしなかった引き締まった尻が細かく揺れる。二人の肛門栓を繋いだ鎖が小さな音を立てた。弥生の悔しさがMの素肌に伝わってくる。
「神無月の報告のとおり状況は悪い。資金も思ったほど集まらなかった。早急に山岳アジトに移って出撃の機会を探ろう。このままではじり貧になるだけだ」
ピアニストの悲壮な声が響いた。

「賛成だ。ピアニストの提案以外にシュータの生きる道はない。滅びに向けて戦い続けるにしても戦い方がある。一方的に追い詰められて蹂躙されるのは嫌だ。時を見て出撃するしかない。今夜にもアジトに移動しよう」
修太がピアニストの提案を引き取って応えた。シュータの指導者としての矜持が張り詰めた声にこもっている。
「ダメッ、夜の移動なんて危険すぎる。検問に引っかかって銃撃戦になるだけだわ。それで一巻の終わりよ。移動するなら白昼堂々、他の車に紛れてさり気なく行くべきよ。渋滞が激しい昼なら、警察も検問を続けることはできない」
睦月の熱を帯びた声に全員がうなずく。興奮した面もちの霜月が手製の拳銃をコートのポケットから出して左手で銃身を撫でる。銀色の火器がランタンの光を浴びて輝く。カチッと撃鉄を起こす乾いた音が室内に響いた。
「霜月、よせ。暴発したらどうする。銃器などは滅びを彩るただの飾りだ。花火大会は最終日にしろ」
ピアニストの叱責に霜月が頬を赤く染めて抗弁する。

「まだ爆弾だって二発残っている」
「それがどうした。ここで打ち上げる気か」
冷たい声でピアニストが応え、修太に命じる。
「方針は出たんだ。早速細部を詰めてくれ。明日の夜は山岳アジトで落ち着きたい。オシショウは僕が納得させる。時間がないんだ。すぐ始めてくれ」
命令を下したピアニストは、大きく両手を組んで目をつむった。部屋の中にオシショウの姿はない。午後十時を回ったころ、コンビニエンス・ストアーに行くという冗談を残して外に出たきりだった。オシショウの行動を制止できる者は誰もいない。しかし、時と場合があるとピアニストは思う。この非常時に、たとえオシショウだからといって無責任過ぎた。ピアニストはオシショウの勝手な行動を憎んだ。何よりも今、秩序が重んじられねばならないのだ。じっと瞑目したまま、ピアニストはこれまでの経過に思いを馳せる。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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