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6.山岳アジト(2)

美術館の前まで坂を下りてから、運転していた文月が張り詰めた声で車内に呼び掛ける。
「水道記念館に来るまで検問はなかったわ。まっすぐアジトに向かいます。卯月、シートベルトを締めてよ」
助手席の卯月が慌ててシートベルトを締めた。ポケットの拳銃を握り締めたまま、修太が補給担当の文月に声を掛ける。
「よし、すべて順調だな。交通法規どおり運転してくれ。それから物資の方はどうだ」
「急だったけど一週間分を運び込んでおいたわ。一日十四人を見込んであるから、この人数なら実際はもっと持つわ。指令どおり私の組織は使わず幹部だけでやったから足がつく心配もない」
「よくやってくれた。パジェロ二台で一週間分の物資が運べるのは心強いね。週一回、連絡便を出せばいいんだ」
修太がほっとした声で応えた。
「警察の目が山へ向かない限り大丈夫よ。少なくとも二月いっぱいまでは人も来ないところよ」
前途を楽観したように文月が言った。三月になったらどうするのだろうと、狭い床に腹這いになって二人の会話を聞いていたMは不安になる。警察の目が山に向かないはずがないとも思った。山の中で銃撃戦が行われるかも知れない。Mの考えを見透かしたように、尻に乗ったピアニストの足に力が入った。Mは何も考えないことに決め、荷物になったように車体の揺れに身体を預けた。パジェロは順調に市街を走り抜け、山地に向かう。全員が無言のまま車体の揺れに身を任せている。

「ピアニストの家だね」
三十分ほど走ってからポツンと修太がつぶやいたが、返ってくる答えはない。六人を乗せたパジェロは、鬱蒼とした杉木立を縫って山奥へと向かう。狭くなった山根川を何回となく渡り、うねうねと続く林道を車体を揺らせながら走った。舗装道路が絶えてから、もう三十分になる。いつの間にか山根川の渓流も見当たらなくなっていた。林道に沿って小川ほどの流れが見えるだけだ。いくつもの谷筋に流れる名もない支流沿いに更に進む。

「もうじき県境だな」
黙って車の揺れに身を任せていたピアニストが思い出したように言った。刺々しかった車内の緊張がようやく薄れていく。緩やかなカーブを曲がりきると前方に小さな待避場が見えた。大型車がやっと方向転換をする余地がある。
「営林署も警察もここで管轄が代わる。うれしい限りだ」
ピアニストの明るい声に応えるように、文月がアクセルを踏み込む。車体が激しく揺れ、パジェロは簡単に県境を越えた。これまでと違い、驚くほど荒れた林道の感触が車輪から伝わってくる。踏み固められた轍の跡さえない。ほとんど通行車両がない証拠だ。全員の口元に笑みがこぼれる。M一人が床に横たわり、車体の激しい振動をもろに全身で受けて苦吟していた。荒れ果てた林道を十五分ほど上った。植林が進んでいない広葉樹の多い山並みが新鮮だった。時折山側に枝道が見える。

「そこじゃないか」
座席から身を乗り出したピアニストが林道から右手に折れる細道を指差す。
「いいえ、もう一つ先よ」
自信に満ちた声で答えた文月が、細道を通り越してから大きくハンドルを切った。チョロチョロと水が流れ出している小川の中に、文月はパジェロを乗り入れた。
「ピアニストが来たころと川筋が変わったみたいよ。お陰で水道がだめになっていたわ。後十分で着くはずよ」
激しく揺れる車内に文月の声が響いた。舌を噛まないように十分注意した口調だった。床に横たわったMの全身を絶え間なく衝撃が襲う。何回となく吐き気が込み上げてくる。ついに耐えきれなくなって両足を蹴り上げた。毛布の裾が乱れ腿の付け根まで丸出しになる。構わず両足で床を蹴り続けた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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