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6.山岳アジト(10)

「基本はいつでも抗戦できる体勢でいることだ。日を追うごとに戦闘力を高めることに目標を置こう。規律正しい生活と団結が大事だ。個々の体力も鍛えてもらう。来るべき出撃に備え、まずシュータを理想的な戦闘組織に変える。自らが惜しまれる組織にならねば、社会を変革することなどできはしない。滅びと等価になるほど惜しまれる社会をシュータに体現するんだ。きっとできる。君たちの能力は高い。希望に向かって精進を重ねよう」
沈滞していた部屋の空気が高揚していくのがMにも分かる。股間に置かれていた弥生の右手が微かに震え、強く握り締められた。弥生は大きく息を吸い込み、そのまま静かに止め、求めるようにピアニストを見つめている。Mは全身の力が抜け、うなだれてしまった。心の底から深い悲しみが立ち上ってきた。子供たちはいつも、邪悪な思想に弄ばれるのだ。荒ぶる言説にひかれていく鋭すぎる感性が悲しい。疲れ切った裸身が心の寒さに震えた。

ピアニストの演説に大きくうなずいて修太が立ち上がった。先ほどより声のトーンを上げて話し始める。
「ピアニストの言うとおりだ。心を引き締めて規律を高めよう。まず見張りを厳重にする。見張りは屋根裏部屋を使って二十四時間武装して行う。二時間交替だ。松の梢越しにログハウス前の広場が一望でき、裏山の稜線も見える。睦月が最初だ。後は月順に交替する。すぐに配置に就け」
小柄な睦月が椅子を鳴らして立ち上がった。兵器担当の霜月が銀色に輝く拳銃を差し出す。睦月の小さな手に大きなリボルバーが重い。慎重に弾倉を開けて実弾を確認する。補給担当の文月が差し出す大型のマグライトと双眼鏡を持ってドアを開けた。
「夜の見張りは耳で見るんだ」
修太の掠れ声が睦月の背を打った。

この時間まで見張りを置かなかった事実にピアニストは愕然とした。組織のレベルアップが緊急の課題になる。有無を言わせぬ大人の権威がまさに求められていた。この場を修太に任せるわけにはいかないと思った。大きく息を吸い込んでから、ゆっくり吐き出すようにピアニストは言葉を口に乗せる。
「毎日の起床は午前五時。午後七時には就寝とする。日課は訓練と作業が中心になる。何よりも組織の戦闘力を高めることを優先するんだ」
ピアニストの声に全員から無言の驚きが帰ってくる。昼と夜を逆転させた生活を続けてきた学生が、一朝にして農民の生活に戻るのだ。しかし、それが父祖たちの暮らしなのだ。日が昇る前に起き、日が沈めば眠る。精神から鍛え直すには一番良い方法だった。ピアニストは言葉を続ける。

「見て分かるとおり天井には電灯がある。このログハウスには自家発電装置があるし石油もプロパンガスもある。簡易水道が入り、浄化槽が設置してある。トイレは水洗で風呂もある。街の暮らしと変わりがない。だが、発電装置は使わない。そして、肝心の水が使えない。簡易水道の取水口が山崩れで埋もれてしまったのだ。貯水槽の水が切れれば我々は干上がってしまう。それもいつ入れたか分からない水だ。先ほど作業と言ったのは取水口の整備だ。手作業で土木工事をすることになる。さっき見てきた限りでは復旧のめどは立たない。その間の水は、湧き水から汲んで使う。湧き水までの距離は五百メートルある。獣道を登っていくのだ。辛い仕事になる。それでも飲料水が確保できるだけだろう。トイレや風呂で使う水はない。すべてログハウス前の広場の先の自然で賄う。いくら寒くても身体は山裾の谷川で洗え。トイレは山の中だ。ここから二百メートルは離れている。何度も言ったように、我々はキャンプに来たのではない。辛い作業を続けながら戦闘力を高めるんだ。明日から原始生活が始まると思ってくれ。怠けるものは徹底して懲罰する」
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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