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5.友の肌合い(8)

エレベーターの爆破ごときの物損は金で片付く。問題は死者と怪我人だけだとまたしても思い至る。これまでに何回となく出した結論だった。弥生の軽率な行動が悔やまれてならない。反省二か月の懲罰も軽いとさえ思う。シュータに集まった子供たちを使ったことが間違いだったとも思った。だが、コスモス事業団の理事長亡き後の社会変革の夢は、組織を持たないピアニストには妄想でしかなかった。夢を現実に繋いだのがシュータと思えば悔いを残す余地はないはずだった。しかし、つい愚痴りたくなる。指導者を命じた修太も甘い。組織全体のゆるみが今日の事態を呼び寄せたのだ。ピアニストは顔をしかめて首を左右に振った。何とか滅びを押し止める方法はないのかと、思考はまた迷路にさまよい出る。口で滅びを賛美するからといって、ピアニストの関心は滅びなどにはない。何とかして社会の向かう方向を変えさせることだけを望んだ。オシショウの教えなどは、あってもなくてもよかったとさえ今は思う。信じられるものは自身の思想だけだった。思えば、現実だけを生き抜いていくMの姿を拒絶してからもう十五年近くなるのだ。あるがままの現実を自在に操り、魔術師のように生きるMが今でも憎い。きっとMは、ピアノを捨てた僕を心の底で軽蔑しているに違いないと思った。ひとすじの道を歩めず、回り道をして迷う人間を馬鹿にしているのだ。ピアニストならばとうの昔に投げ出しているはずの過酷な状況の中で、望みを捨てずに自分の道を突き進むMの姿は脅威だった。そのMがまたしても目の前に現れている。不吉な予感がピアニストの脳裏を掠めた。腕を組んで瞑目したまま、ピアニストは苦笑する。殺人が絡む事件で追われる犯罪者が、不吉な予感もないものだと思った。世界はなぜ、Mが縦横に歩き回る理不尽さを許したのか。曖昧な規範がすべての原因だとピアニストは答える。魔術師のMが自在に動き回って影響力を振るえないように、細部まで緊密に構成された秩序ある社会が欲しかった。秩序だけが恣意に打ち勝つ。優れたデザインの基に社会を造り変える以外、Mのような者が跳梁する場を無くす方法はないと思う。そもそも性の拙さを笑われる所以はないのだ。独りで快楽に耽ることを責められる道理はないとピアニストは憤る。なぜMは僕を放っておかなかったのかと、出口無しの現在にピアニストの思考は乱れ、時間を遡って未練ばかりが募っていった。どうせ馬鹿どもとともに滅びるのなら、虜囚となったMを思い切り陵辱してから滅びたいと唐突に思った。少なくとも気分転換にはなるかも知れなかった。

ピアニストは腕組みを解き、目を開けてさり気なく周囲を見回して修太の姿を追った。修太は窓辺に寄って、四台の携帯電話を不規則に使い分けて手短に外部と連絡を取り合っている。他のメンバーも明日の移動の計画を練り上げるのに余念がない。ピアニストは音を立てないように椅子を引いて立ち上がった。気配を消すことに専心してゆっくりドアに向かう。ドアの横の壁の前に二つの裸身がうずくまっている。ピアニストの目の下に豊かな尻と引き締まった尻が並んでいる。二つの尻の割れ目に肛門栓の金属棒が突き出ている。陰門を封鎖した金色のリングがランタンの揺れる光を浴びて隠微に輝く。ピアニストはテーブルの上のアタッシュケースから肛門栓の鍵を摘み取って豊かな尻の後ろに屈み込んだ。少し開いた太股の間から床に頭を着けたMの顔が見える。いぶかしむ目が大きく見開かれ、ピアニストの弱気な視線を捕らえた。

「今晩はピアニスト。私の所に初めて来てくれたわね。修太より遅かったけど恨みはしないわ。ご用事はなあに」
ふざけきった口上にピアニストの頬が紅潮した。恥ずかしさに全身を震わせた後、努めて冷静な声を装う。
「シュータの虜囚になったMを陵辱しに来たのさ」

ピアニストの声と同時に、弥生の尻が微妙に震えた。Mの脳裏を疑問が掠める。弥生の反応はMを案じたものとは思えなかった。だが、シュータを操るピアニストの言動に疑いを持ったとも思えない。不思議な違和感が全身を満たした。Mはさり気なく剥き出しの股間から明るい声で応える。

「それは光栄ね。ところで、修太の許可は取ったの。あなたとオシショウは所詮顧問格よ。シュータの指導者は修太でしょう」
「僕が決めたことに逆らう者はいない」
断言したピアニストが肛門栓に鍵を差し込む。
「ピアニスト待って、私を陵辱する前に弥生を犯しなさい。あなたの成熟振りを見てからでないと私は安心できない」
今度は弥生の尻が激しく震えた。もう間違いはなかった。よりによって弥生はピアニストに好意を抱いたのだ。弥生の先行きに不安を感じてMの目頭が熱くなる。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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