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7.山の生活(3)

「スタートまで二分よ。後ろを向きなさい」
真っ白な息を吐きながら極月が告げた。Mと弥生の肛門栓を繋いだ鎖が取り外される。でも自由になった身体を喜んではいられない。すぐマラソンがスタートするのだ。水汲みで疲れ切った身体が拒絶反応を起こし、吹きつける寒風に震える。だが、鎖を外された弥生は全身で自由を謳歌する。引き締まった裸身を朝日に輝かせ、両足を大きく開いてストレッチ体操を始める。全身の筋肉がしなやかに伸び、美しく躍動した。
「さあ、Mもストレッチしなさい。せっかく二キロが走れるようになったのだから、四キロでも同じことよ。足が吊ると距離が長い分辛いわ。十分に筋肉をほぐすのよ」
楽しそうな声で弥生が呼び掛けた。仕方なく、Mものろのろと硬い身体を動かし始める。白いスニーカーが踏み潰す霜柱の感触が、不安な気持ちを一層高める。

「よしっ、スタート」
ピアニストの大声が草原に響き渡り、十一人の素っ裸の男女が一斉にスタートした。二十代の若々しい裸身が集団で走り出す様は壮観だった。吹きつける寒風に負けずに、伸びやかな裸身が風を捲いて走る。裸体の群はまっすぐに松林に向かう。広場全体が斜面になっているため、登り道のスタートだ。コースを一周する度に二回のアップダウンがある。フラットな陸上競技のトラックとは比べようもない。荒れ地を駆けるクロスカントリーといった方がよく似合った。単調にコースを周回する姿だけがトラック競技と似ている。広い踏み跡のできた草原を松林に沿って全力で走る。Mは集団の最後尾にいた。二十メートル先に五人の裸身が見える。大きく両手を振り、足を蹴り上げて走る姿が逆光にまぶしい。尻の筋肉が美しく躍動している。同じように鍛え上げた裸身だが、それぞれに個性がありレベルも違う。谷側のインを走る睦月の小さな尻は丸くて可愛らしい。短い足を忙しなく蹴り出し、地面を這うように走っている。睦月に比べ、山側のアウトを走る文月は飛ぶように走る。肉付きの悪い尻から伸びた長い足が大きく地面を蹴る。ひときわ逞しい霜月の裸身が五人の集団を抜け出していく。神無月、卯月の男性二人が必死に追いすがっていった。

コースは目の前の切り立った山の前で右回りにコーナーを回る。下りになった斜面の第二コーナーを無理のない姿勢で走っていくピアニストの裸身が見えた。Mとは五十メートルの差があった。ピアニストの後に弥生が続き、極月が追う。少し離れて修太の裸身がコーナーを回った。さわやかな息づかいが聞こえてくるような安定した走りだ。Mが谷川に沿った直線コースにでたときは、睦月と文月から三十メートル離されていた。しかし、Mはペースを守って淡々と走る。初日と違い、それほどの焦りも感じなかった。

初日のマラソンは思い切ってスタートした。もちろんMが最後尾だったが、前を走る睦月との差は十メートル程だった。だが三百メートル走ったところで足が吊ってしまった。痛む足を引きずり、くたくたになってゴールしたときは先頭から三周も遅れていた。倒れ伏してしまった身体を最下位の罰が待っていた。全身から込み上げてきた焦燥感と屈辱感は、二週間経った今でも忘れていない。四十歳になる肉体は焦ったら負けなのだとつくづく思った。

今朝は六周目になってもMは走り続けている。息は荒く、足が痛んだが、地面を蹴る力は衰えない。だが、先を走る睦月と文月との差は百メートルに開いていた。しかも、まだ二キロメートルも残っている。走ったことのない未知の距離を考えると急に体が硬くなる。

「M、ファイト」
突然大きな声を掛けられ、尻を叩かれた。Mの横に、熱く躍動する弥生の裸身が並んだ。ピアニストが颯爽と二人を抜き去っていく。
「M、走りが軽そうに見えるわ。その調子よ、前の二人は必ず抜ける。頑張ってね」
スピードを落としてMと併走した弥生が大声で力付けた。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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