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3.内職(5)

「まあ、顔見せも済んだことだし、Mさんよ。わしらの内職をゆっくり見ていくがいい」
お米さんが大きな声で取りなし、三人の老婆がそれぞれの机に向かった。素知らぬ顔で仕事を始める。いずれも老婆とは思えぬ手早さで、丁寧な仕事ぶりだ。Mの口から感嘆の溜息が出た。
「内職と言っても一貫した流れ作業になっているのね。まるで工場みたい。でも、桜さんの所まで行っても何ができるか分からないわ。ずいぶん柔らかそうな皮だけど全部黒ね。皮革工芸品を創っているの」
Mが首を傾げ、誰にともなく尋ねた。前に座った三人の老婆が一様に品のない顔で笑った。

「お菊さんの所まで行くと形になる。さあさ、お菊さん、いつまでも興奮してないで、かわいい娘に組立を見せてやりな。これでも立派な実用品なんだ」
お米さんがお菊さんに大声で呼び掛けた。やっとお菊さんの口に微笑が浮かぶ。自分の座り机の前に座って、桜さんがミシンをかけた皮帯を手に取る。机の上には小さい箱が五つ置いてあった。その一つから銀色のリングを摘み上げて長い皮帯と短い皮帯を複雑に繋ぎ止める。続いて大小のリングに二十本もの長短の皮帯を繋ぎ、折り返しに黒い鳩目を打って止める。最後に要所要所に尾錠を付け、差込の皮帯に小さな穴を空けて作業が完了した。組立作業は三十分ほどの工程だった。

「ほら、一挺上がりだ。使いやすそうだろう。羊皮を使っているからとても柔らかいぞ」
お菊さんが誇らかに言って、蜘蛛の巣のように入り組んだ黒い皮帯の寄せ集めをMに手渡す。確かにしなやかで柔らかい手触りだが、何に使う品かまだ分からない。
「何に使うと思う」
皮帯の複合品としか言えない製品を手にして首を捻っているMに、お菊さんが笑いながら問い掛けた。
「さあ、何かに被せて梱包するようだけど、よく分からないわ」
答えを聞いて、四人の老婆が一斉に笑った。

「半分は当たっている。これは女の身体を梱包するときに使う物だ。これを見れば分かるだろう」
お菊さんが楽しそうに言って、壁際に並んでいる段ボール箱から黒革の手枷を取り出す。製品の中央のベルトに手枷を通してから、またMに返した。まだMにはよくイメージできないが、手枷の印象から身体を拘束する器具であることは知れた。
「SMプレイで使う拘束具なのね。失礼だけど、まさかお婆さんたちが性具を作っているとは思わなかったわ。きっと高価なんでしょうね。どうやって使うのかしら」
「設計図には乳房強調拘束具と書いてあるぞ。都会で売るときは一本三万円だと聞いている。わしらには工賃として一万円入る。割のいい仕事だ。だが、こればかり作るわけにはいかない。高価すぎて量が出ないそうだ。その手枷もわしらが作った。猿轡も作るし、肛門調教具も作る。皮革を使うSM用品は一手に引き受けている。みんな天田さんが紹介してくれた業者からの注文だ。お陰で生活保護をもらわなくとも暮らしが立つ」
お菊さんの説明を聞いたMの脳裏にチーフの顔が浮かんだ。チーフは都会でSMショーの女優をしていたのだ。そのころの関係者を天田に紹介したに違いなかった。四人の老婆の暮らしと生き甲斐をSMが支えている。不思議な気がした。だが、この建物ですら遊郭の跡なのだ。余りにも濃厚に性の匂いが満ちあふれている。鋭敏になった神経が官能の予感を告げる。痺れきった足を崩すと短い陰毛が股間で疼いた。危険な兆候だった。

「富士見荘にはもう一人、お爺さんが住んでいるって聞いたわ。その人にも紹介してくれるんでしょう」
無理に話題を変えて、四人の老婆に尋ねてみた。
「ああ、先生のことか。お菊さん、連れてってやんなよ。あのすけべ爺はきっと、涎を流して喜ぶこと請け合いだ」
お米さんが毒々しい声で言って下品に鼻を鳴らした。
「退職教員なんですか」
Mが問い返すと、お米さんが即座に大声を出す。
「堕胎専門の医者だって噂だよ。でも、わしは堕ろしてもらったことはない。ただの噂さ。先生はもう九十歳になる。今じゃあ強突張りの金貸しさ。いっぱい貯め込んでるよ。わしはまだ、担保に取られた厚生年金証書を返してもらっていない。利息が残っているって言うんだ。足元を見て月一割も利子を取る。わしらは四人とも泣かされているんだ」
話はまた妙な方に進んでいく。お米さんの顔が醜く歪み、濃厚な暮らしの匂いが漂ってくる。

「まあまあ、お米さん、あんまり興奮せんで。先生のことはわしに考えがある。それよりM、拘束具の使い方が見当もつかないと言ったろう。わしたちも設計図しか知らん。使っている写真も絵も見たことがない。でも全員が使い方を知っているぞ。女の身体に使う品の見当がつかないのでは女とは言えん。M、勉強が足りんぞ。自分の身体で試してみるがいい。ここで裸になれ、わしらが使い方を教えてやる」
お菊さんが意地悪く話題を拘束具に戻して難題を持ち掛けた。他の三人も目つきが変わり、そろって腰を上げた。休憩時間にふさわしい刺激が久方ぶりにこの部屋に訪れたという雰囲気だった。

「M、裸になりなさいよ。あたしたちは使い方を知っていても実際に使ったことはない。萎びきった婆さんの乳房に乳房強調拘束具は皮肉すぎる。Mの身体なら言うことはない。ぜひ見てみたい」
お梅さんがMの前まで来て励ますように言った。
「そうよ。私たちの製品の出来映えをぜひ試して欲しい。きっとMなら、ほれぼれするほど似合うと思うわ」
桜さんがオートクチュールのドレスの試着を勧めるような口調で言った。四人の老婆に取り囲まれたMは小さく首を縦に振るしかなかった。母親以上の年齢の老婆たちがSMのモデルを欲しているのだ。凄まじいエネルギーが全身に覆い被さる。性の行く末に果てはないのだと、改めて思った。四人の老婆がMを立たせ、寄ってたかって全裸に剥いた。剃り上げた無毛の股間を見た老婆たちが一様に溜息をつく。均整のとれた裸身に羨望の眼差しが集まる。Mは背筋を伸ばし、胸を張って煤けた空間に直立した。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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