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3.内職(8)

「おお、悩ましい姿だ。二十年は寿命が延びそうですな」
薄暗い空間に浮かび上がる裸身を見た先生が大仰に感嘆の声を上げた。その声が合図のように、後から入ってきた桜さんがドアを閉めて蛍光灯の紐を引く。頭から明るい光を浴びた裸身が微かに震えた。拘束具で強調された両乳房で、突き立った乳首が固くなった。柔和だった先生の目が刺すように光る。
「M、正座して先生にご挨拶しなさい」
丁寧な言葉使いになったお菊さんがMに命じた。Mは足枷と膝枷で繋がれた足を無理に折って、ささくれた畳の上に正座した。先生もMの前に座る。四人の老婆が座るのを待って、Mは後ろ手に緊縛された不自由な身体で中腰になって頭を下げた。畳に額を着けて身体を支える。下に向けた口から情けないほど涎がこぼれて古畳を濡らした。背後に高く突き出した尻で、肛門調教ポンプから伸びた二本のゴムパイプとゴム鞠が尻尾のように揺れる。恥ずかしさで全身が赤くなった。お菊さんが立ち上がり、裸身に手を添えて再び正座させた。口枷で戒めたあごに手をかけ、無理に顔を上げさせてから先生に訴える。

「先生、このように口を開けて、この娘は先生をお待ちしていたのです。なにとぞ、お情けをかけてやってください」
「お願いします」
お菊さんの口上に続けて三人の老婆も口をそろえて艶めかしい声を出した。Mの背筋を冷たいものが走る。先生が大きくうなずいて腰を上げ、すぐ前に立った。やにわに大島紬の袷の裾を大きく開く。後ろに控えた桜さんが裾を摘み、素早く背中にたくし上げた。細い足を剥き出しにした先生の股間で萎びきったペニスが揺れている。目と鼻の先だ。顔を曲げてよけようとしたが、お菊さんが後ろから頭を支えてしまう。口枷で大きく開かれた口の中に先生がペニスを挿入した。なんとも言えぬ、ぶよぶよとした感触が舌先に触れた。一瞬全身がビクッと震えた。先生が腰を使う。縮めた舌を追ってぐにゃっとしたペニスの先が口の中を動き回る。喉元に吐き気が込み上げてきたとき、両の乳房が優しくもまれた。意外に張りのある先生の指先が繊細に乳房を這い、乳首をつまむ。T字帯で戒められた股間の奥で小さな火が点った。Mを求める先生の執念が痛いほど陰部を刺激する。縮めた舌を伸ばし、恐る恐る柔らかなペニスの先に舌を這わせた。小さな喘ぎが先生の口を突くと、萎びきったペニスがむっくりと頭をもたげた。なんとも言えない感動が下腹部から湧き出し、股間が濡れた。官能の行く末にも、きっと果てはないのだと痛切に思う。ピアニストの顔が脳裏を掠めた。死刑囚のピアニストには明らかな果てが実在する。きつくつむっていた両目から涙が湧きだし、頬を伝った。涙の滴は頭をもたげかけた先生のペニスの根元も濡らした。先生の腰の動きが止まり、勃起しかけたペニスがそっと引き抜かれた。

「この性具は気に入りました。一セット十万円で買いましょう。この娘を付けるなら百万円だ。文句はありませんね」
先生の陽気な声が部屋にこだました。思わぬ臨時収入の知らせに四人の老婆が浮き立つ。Mは涙に濡れた目を開いて先生を見つめた。

「どうせ返済金の遅れを見逃してもらいたくて、婆さんたちの仕組んだことに違いないのでしょうが、あんたの潔さが心底気に入りました。Mさん、これに懲りずにいつでも遊びに来てくだされ。買った性具を使わせてくれれば、その都度二万円を出しましょう。どうせ九十歳の爺の言うことだ、気軽に付き合ってくれればいいんですよ」
Mを見つめて言い切った先生が懐を探り、分厚い財布から十二万円を取り出す。二万円を別にして裸身の前の畳に置いた。

「これはこれ、あれはあれだ。皆さん、利息は寝ていても付くことを忘れずに、みっちり稼いで借金なしに励んでくだされ」
言い残して先生は立ち上がり、先ほどと同じ知性的な身のこなしでドアを開けて廊下に出た。階段を降りるステッキの音が響くと同時に、四人の婆さんははじかれたようにMの周りに寄ってきた。喜々とした六本の手が素早く淫らな拘束具を外して裸身を撫で回した。

「凄いわ。Mは金の卵ね。先生の言いなりになりさえすれば一か月で六十万円も稼げるわ。私も若かったら借金苦労をしなくて済んだのね。Mが羨ましい」
畳の上に置かれた十二万円を見つめて桜さんが陶酔した声で言った。
「何を言う。Mは女郎ではないぞ」
言ってしまってからお菊さんは、慌ててお米さんの横顔をうかがう。
「いいや、女郎だってそんなに稼げない。わしを見れば分かる。Mの身体はお宝じゃ」
興奮しきったお米さんは昔の自分に帰って話している。皆一様に若やいでいた。老婆たちの興奮がMの素肌に染み通っていく。

「私は、本当に求められたときは先生の所に行こうと思う。先生のような老人に身体を売っても売春のような気がしないわ。でも、ただではだめ。先生を馬鹿にしているような気がするの。強突張りの金貸しでも性には惜しみなく金を払う。具にも付かない男に身も心も捧げきる性もある。大先輩たちの前で言うのも気が引けるけど、皆さんを見ていると女の性は凄いと思う。奥が深すぎて、原初の仕事の売春さえ肯定したくなってしまう。自分の責任と人格で生きて行くなら、身体を金に換えることが罪悪とは思えないわ」
思いがけぬ言葉が口を突いて出た。Mは惑う。
「そうじゃ、そのとおりじゃ。女郎はみんな、好きこのんで身体を売ったのではないぞ。悲しい性が身体を売らせたのだ」
お米さんがまた大声を出した。Mの真意は伝わっていない。共有した興奮だけが世代を越えて性を謳っていた。ただ一人興奮を免れたように、お菊さんがMを拘束していた性具を袋に詰め、いつもの掠れ声で問い掛けた。

「M、この拘束具は十万円で金貸しに売れたものだ。悪いが、ぬしが持っていってくれ。奴も喜ぶだろう。この二万円はMのものだ。わしはMが身体を売ったと思わんし、たとえ売っても軽蔑はしない。だが、暮らしが立つのに身体を売ることを、きっとわしは認めないだろう。M、好いた男はいないのか」
「いるわ」
即座に答え、嘘をついた。ピアニストの顔が宙を掠めて消えた。やはり嘘かとMは思った。熱くなっていた気持ちが急激に冷え切っていく。疲れ果てた裸身を震えるほどの寒さが襲った。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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