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5.婚姻届(7)

「ごめんよ」
ノックもなしに声が掛かり、ドアが開けられた。お菊さんが無遠慮に部屋の中に入ってくる。
「おお、何度見てもMの身体は艶めかしいぞ。女のわしが惚れ惚れする。本当に羨ましいぞ」
いつもの常套句を口にしてから、お菊さんは素知らぬ顔で敷き布団に上がってMの前に座り込んだ。Mの方が面食らう。開いた股間を婚姻届の用紙で隠し、文箱の中から急いで六万円を取り出した。
「お菊さん、会費をお届けしなくてごめんなさい。面倒でも納めてください」
頭を下げて言ってから札を差し出す。細い右手がさっと伸びて六枚の紙幣を持ち去っていった。

「これはもらっておくが、会費の督促に来たわけではないぞ。死刑囚の男と会えなかったという今朝ほどの嘘を糺しに来たんだ。M、他のもうろく婆さんは騙せても、わしは騙されはせぬ。Mほどの女が手ぶらで帰ってくる道理がない。その股間を隠した紙片を見れば一目瞭然だ。わしの目は節穴ではない。死刑囚との婚姻届と見た。だが、M、やめておけ。その男は紙片の下の股間をかわいがってはくれない。女を喜ばせられない男はいない方がいいのだ。喜ばされもせず、泣かされ続けるのではあんまりというものだ。その紙は早く破り捨てたがいい。悩ましいほどの裸身がもったいないぞ」
説教を終えたお菊さんが腰を浮かせた。素早く手を伸ばして婚姻届の用紙をつかみ取ろうとする。Mはすんでの所で用紙を取って背後に隠した。お菊さんは頓着せず、剥き出しになった股間の中心に手を潜り込ませた。Mの口から短い悲鳴が上がった。お菊さんの萎びた指が性器をつまみ、陰門をまさぐる。Mは婚姻届を持った両手を背後に回したきり抗うこともできない。それほどお菊さんの指先は巧妙だった。やがて胡座を組んだ膝先が震え、組んだ足が高く上がっていった。股間にのし掛かってきたお菊さんに倒されまいとして背後に回した両手を広げて布団の上で上体を支える。後ろにのけ反って肛門まで丸出しになった股間をお菊さんが両手でなぶり始めた。指先に強弱をつけて性器と陰門を執拗にまさぐる。Mの口から高く低く喘ぎ声が漏れ始めた。愛液で股間がびっしょりと濡れた。

「ほらM、こんな淫乱な身体が男無しで我慢できるはずがない。死刑囚と添い遂げようなど笑止だと、この股間が正直に答えているぞ」
お菊さんのなぶり声にMの官能が高まり、神経がずたずたになっていく。波のように襲う官能に抗い喘ぎ声でお菊さんに哀願した。
「お菊さん。私の官能を引き出したご縁で、どうか婚姻届の証人になってください。お願いします。この燃え上がる身体をあの人にあげたいのです」
喘ぎに混ざる言葉を聞いて、お菊さんの指先が止まった。鋭い視線でMの目の底を見つめた。何気ない顔でMを起こし、ほんの少しだけ身体を引いた。

「M、わしに十万円貸してくれろ」
ポツンとつぶやいたお菊さんの言葉にMは耳を疑ってしまう。素っ裸のMを責めていたお菊さんが唐突に借金を申し込むのだ。聞き違いとしか思えなかった。
「たった一人の孫がイギリスに留学したいと言うんだ。登校拒否で二年間も部屋に閉じこもりきりだった高校生だ。やっと気力を取り戻し、外国に行こうと決心した孫に婆がしてやれることは金を送ることしかない。頼みの息子も交通事故を起こしたばかりだ。少しでも金が要るんだ」
金の要る理由は分かった。お菊さんの気持ちも分かる。だが、たった十万円なのだ。貧者の一投と言っても哀れすぎた。
「お菊さん、気持ちは分かるけど、十万円で何とかなる問題とは思えないわ」
冷静に答えたMにお菊さんの怖い視線が突き刺さる。
「所帯苦労をしたことがないMに分かりはしない。どんな大金だろうと、みんな一円の積み重ねだ。一円を笑う者は一円に泣く。Mに借りて足りない分は金貸しの先生に借りるんじゃ。今日は断られたが、誠意を持って頼み込めばきっと分かってもらえる。家主の大屋さんも、わし同様金が要るそうだ。ちょうどよいからわしが誘って、二人で先生から借りることにした。今夜で懲りずに願いがかなうまで何度でも頼み込むぞ。とりあえずは十万円だ。M、今日は給料日だろう。ぜひ貸してくれろ」
お菊さんの迫力の前にMはたじたじとなる。しかしもう、手元には十万円はない。給料日なのにと思うといわれもなく恥ずかしさが込み上げてくる。

「お菊さん、貸して上げたいのは山々だけど私には八万円しかない」
「だってM、今日は給料日だろう」
あっけにとられた顔でお菊さんが叫んだ。Mは文箱をお菊さんに差し出し、大屋に貸した金の話をしてスーツを買ったときのレシートを見せた。
「金がないくせにMは甘過ぎるぞ。まあ、六万円の会費を払った後だから食べる心配はないが寒い暮らしだ。わしは五万円でいいぞ」
五万円を手に取ったお菊さんが、三万円が残った文箱をMに返した。金を借りる方が貸す方より取り分が多いのだ。暴力的な借金だが、あっけらかんとして憎めないものがある。

「M、ありがたく借りて行くぞ。それから、その婚姻届を貸せ。わしが証人になろう」
Mの手から婚姻届の用紙を受け取ったお菊さんは何事もなかったように立ち上がり、ドアを開けて自分の部屋に帰っていった。しばらくして、ねじ曲がった大きな文字で署名し押印した婚姻届を大事そうに届けに来た。何と言うことはない、お菊さんの署名捺印を五万円で買ったようなものだった。だがこれで、日曜日に歯科医を訪ねるだけで婚姻届が出来上がるのだ。十五年振りに会う歯科医の顔が脳裏に浮かび上がった。当然、当時のままのセクシーな表情だ。生々しいイメージに戸惑ってしまう。頭を振って幻像を追い払った。去っていく歯科医の口元に苦笑が浮かんでいた
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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