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1.築三百年の屋敷(6)

「留置場に、犯罪者を入れるときはね」
話し始めた山形婦警が、言葉を切って僕を見ました。口許に意地悪そうな笑いが浮かんでいます。僕は仕方なく、肩をすくめて応えました。
「危険物や薬物を房内に持ち込まないように、素っ裸にさせて身体検査をするのよ。Mにも裸になるように命じたわ。Mは恥ずかしがって抵抗した。でも、羨ましいほど美しい裸身を見て、びっくりしたのは私の方だった。身体中に鞭で打たれた痕があった。両足を開かせて肛門を調べると、かわいそうなくらいに腫れて、括約筋が裂けていたわ。白い肌を真っ赤に染めて、Mは消え入りそうなくらい恥ずかしがっていた。私には、そう見えたの。だから、優しく留置場の規則を言い聞かせ、守らないと懲罰することも教えてやったわ。留置場は旅館じゃないからね。徹底して、規則を守らせるわ。故意に規則を破ろうものなら、メンツにかけて懲罰する。あなたの養母も、私が懲罰したのよ。どう、もう聞きたくなくなったでしょう」
山形婦警が、怖い表情で問い掛けてきました。僕は背を正して身を乗り出します。

「いいえ、先を続けてください」
あごを引いて答えました。山形婦警には、ふてぶてしい態度に見えたのかも知れません。射るような視線で睨み付けてきました。ここで恫喝に負けるわけにはいきません。じっと視線を受け止め、沈黙に耐えます。
「あなたも、強情な子ね。どうしても、養母の恥を聞きたいというのね」
あきれた声で山形婦警がつぶやきました。
この勝負は僕が勝ったようです。大きくうなずき返すと、山形婦警が再び話し始めました。
「Mも、あなたと同様、強情な女だったわ。留置した翌朝から、私に反抗を始めた。朝食の時に、三度も味噌汁をこぼしたのよ。もちろん、故意にしたことよ。私も軽んじられたと思って、厳しく罰することにした。汚した服を脱がせて、素っ裸にしてやったわ。後ろ手に手錠をかけ、房の中央で正座しているように命じたの。Mは命じられたとおりにしたわ。全身を赤く染め、屈辱と羞恥に耐えているようにも見えた。でも、どこか変なのよ。妙に高ぶった雰囲気があった。小用を足すときには、大きく両足を開き、私に股間を見せ付けるようにしたのよ。固く目をつむった顔が喜んでいるように見えた。まるで、性の極まりを迎えている雰囲気だったわ。悩ましそうに尻を震わせていたのよ。後になって気が付いたんだけど、Mは変態だったのね。マゾヒストだから、屈辱と苦痛の果ての快楽を求めたのよ。私が、あなたの養母のMを覚えているのは、その狂気のためよ」


恐れ入ったかというように、話し終わった山形婦警は薄い胸を反らしました。しかし、僕は平然と婦警を見つめ返します。
「どうしてMは、マゾヒストになったのでしょう。長い経験を積んだ婦警さんの、現在の見解を聞かせてください」
冷静に問い掛けた声に、婦警はびっくりした顔で応えました。けれど、さすがに犯罪者に厳しく接してきた経験は動じません。諭すような声で説教が始まりました。
「どうしてって、決まっているじゃないの。ひねくれた心で大人に甘えていたのよ。Mは、きっと寂しい環境で育ったのね。だれも相手にしてくれない独りぽっちの幼・少年期を過ごしたはずよ。どうにか大人になって、だれにも負けないような美人に成長した自分を発見した。もう、相手に不自由することはない。特に男はね。でも、人との交わりを経験してこなかったから、男と交流することが怖い。そんなときに、一方的に責め立てられる性を体験したのね。自分は受け身でいるだけで、絶頂に導いてもらえるのだから、怠け者の寂しがり屋には最高のパターンよ。変態のマゾヒストになるには、努力は要らないのよ」
断言した山形婦警が、すっくと立ち上がりました。僕の反論などには耳を貸さないといった素振りです。当然、僕に反論はありません。山形婦警の推論を覆す根拠がないからです。Mが自分の生育史を語らなかった以上、幼少時の心の傷も見えませんし、性向に反映した体験も分かりません。ひとつの説として、ありがたく拝聴することにしました。
その代わり、山形婦警の職歴について質問することにします。

「婦警さん、あなたは捜査員になれたのですか」
僕も立ち上がって、正面から問い掛けました。山形婦警が、真っ直ぐ僕を見つめ返します。
「なれたわけがないでしょう。世の中はそんなに甘くない。進太さんも、早く心の整理をつけて勉強し、いい大学に入ることね」
苦渋の答えと説教を背中で聞いて、僕はコンクリートの部屋を出ました。僕もMと同じように権力に反感を持ってしまうようです。しかし、山形元婦警は自分に忠実な人だと思いました。その一点でMと繋がっているような気がします。


交通安全センターの外には、もう夕暮れが迫っていました。
真っ赤に染まった雲が闇に紛れると、Mが心の底に抱いていた悲しみのような夜が訪れます。「Mの物語」をたどる最初の旅は結構疲れました。でも旅は、まだ始まったばかりです。
来週は都会へ行き、ピアニストのピアノ教師と会うつもりです。僕の戸籍上の父にあたるピアニストと、Mとの出会いの様子が聞けそうで、今から楽しみにしています。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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