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4.クラブ・ペインクリニックの集い(5)

祐子とバイクに対する痛ましさが込み上げてきて、声が詰まってしまいました。ナースが冷たい視線を床に落としました。
「残酷と言うより、滑稽な話ね。すべてがうまくいっていたのに、バイクのお祖母さんの死で台無しになってしまった。事故みたいなものだわ」
つぶやいた言葉の向こうに、微かな悔恨のにおいがしました。僕は、再び口を開きます。

「そうでしょうか。僕は納得できません。バイクが自殺した高等部の校庭で、祐子の傍らにいて一切を目撃したMは、二人の復讐のためにペイン・クリニックへ向かいましたね。欺瞞に満ちた性の仕組みが許せなかったと、Mは話してくれました。祐子とバイクが、人為的な性の仕組みに強いられて、無理に官能を求めたと理解したのでしょう。性を選ばず、愛を育む道があったと悔やんでいました。その思いは僕にも理解できます。サロン・ペインに殴り込んで、暴力的に店を破損したMの行為は直情に過ぎますが、障害者と少女の淡い情愛を破壊された怒りは納得できます。やはり、精神的な苦悩や無為な生活を、性が癒すという考えは虚しかったのではないでしょうか。バイクは死に、祐子は今もって無為に生きているように見えます。僕はナースに、Mのことより、とりわけ二人の悲劇の原因を聞きたいと思っていました」

気掛かりだったことを言えて、ほっとしました。
じっとナースの目を見つめます。けれどナースは、何事でもないように答え始めました。
「道が二つに分かれたということよ。祐子とバイクが性によって生きる希望を見出したことが事実なの」
尋ねる前に答えが用意されていたようで、僕はうろたえてしまいます。耳に神経を集中させて次の言葉を待ちました。
「心身に苦悩や苦痛を持った者は、楽観的に無視するか、悲観的に落ち込むかのどちらかなの。私は悲観的な者を相手にしてきた。祐子とバイクはいくら愛情ごっこに励んでも、二人で落ち込むしかないタイプよ。愛を育むどころか、滅亡を育むのがせきのやま。二人とも無気力で、日常を否定的に考えていたでしょう。そして、なんとかその状況を変えたいという焦りに身を焦がしていた。問題を解決するには、自分が変わっていくしかないの。私たちは変化の契機を性に求めることを勧めたのよ。官能を追い求めたバイクの性は復活し、祐子はその性を自ら受け入れたわ。二人は見事なほど変わった。生きていく希望が見えたはずよ。この事実が真実なの。確かに、バイクは自殺してしまった。でもね、あの世という彼岸に希望を繋ぐことも、一つの選択肢なの。そして、バイクと一緒に見出した希望が死に彩られたと思って逼塞してしまった祐子も、一つの選択肢を選んだということなの。選択肢は幾つでもある。二度と選び直せないバイクには無理だけど、祐子はいつだって道を変えることができる。何をいまさら性を怖れるのか、私には分からない。きっと、Mの本性を勘違いしていたのね」
ナースは淡々と話しました。明快な答えです。祐子とバイクはせっかく開通した道に入ったとたんに、迷子になってしまったというわけです。医療器具に触れたような冷たさを感じました。自己責任という言葉が頭に浮かびました。そして、最後の言葉が気に掛かります。

「Mの本性という意味が分からないのですが、性格のことですか」
ストレートに、疑問が口に溢れました。ナースが厳しい表情を返します。沈黙が部屋に落ちました。やがて、ナースの口許がはにかむように動きました。幾分リラックスした声が返ってきます。
「セックスのことよ。養子のあなたが聞くことではないわ。養母に対して失礼でしょう」
「いいえ、Mはセックスを恥じたことはありません。逆に積極的だったと思います。ナースが、僕に遠慮する必要はありません」
僕が真剣な顔で断定したのでしょう。ナースが吹き出してしまいました。頬が赤く染まっています。
「あなたは私の孫よ。孫にセックスの話をせがまれれば、だれだって面食らうでしょう。けれど、そんなに真剣な顔になるのなら、私も看護婦として話すわ。進太が、セックスをどれほど理解しているか知らないけれど、一つの経験話として聞いてくれればいい。実際は、自分で体験しなければ結論は出せないの。そのことは踏まえておいてちょうだい」
ナースが表情を引き締めて答えました。謙虚な申し出が好感を与えます。僕は背筋を正してしっかりとうなずきました。
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アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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