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5.過去から届いた薬(4)

海炭市は、佐藤泰志の小説の舞台となった北海道の街です。
海峡の対岸にある都市ですが、現在は海底トンネルで本州と繋がっています。
海炭市で高校教師の父子家庭で育った弥生は、故郷を離れ、祐子や父の修太と一緒に市の国立大学工学部に入学しました。一年浪人しているため、祐子たちより一歳年長です。
弥生は、オシショウと呼ばれる老人が主宰する信仰集団の活動にのめり込んでいきます。惜しまれる人間になることを目指すという、オシショウの教義はエリート学生たちに受け入れられ、工学部に広まっていたのです。祐子も付き合い程度に教義に親しみましたが、内向的な生活を送っていたため、遠くから弥生の行動に憧れるだけでした。

個々人の救いを説いていたオシショウの教義は、やがて、社会改造を目指した思想に拡張されます。学生信者たちの過激な布教活動は、既存の社会と対立を深めていきます。先鋭化した活動は、反社会的行為として指弾され、信仰集団そのものが市民社会から閉め出されてしまいました。
追い詰められた信仰は、自らを防御するために閉鎖性を深め、外部に対して攻撃的になります。行き着く先は暴力です。組織された暴力のみが、社会改造を実現できるという学生たちの夢想が、現実と交錯することになりました。

学生信者たちは、十二人の幹部を基幹にしたテロ組織を創り上げました。社会改造の一環として、固定資産税の撤廃と義務教育の廃止を市に要求します。当然、要求は無視されました。その報復として、組織は市役所を爆破する暴挙に手を染めました。この組織のリーダーが父の修太でした。弥生は広報担当、母の睦月は総務担当の幹部です。市立病院の麻酔医をしていたピアニストは、活動資金の一切を組織に提供し、自らの社会改造の夢を教団に託しました。

Mは当時、市を離れて都会に住んでいました。祐子とバイクの悲劇を見過ごすしかなかったことを契機に、心の底から疲れと悲しさを感じてしまったのです。小さな葬儀社の社員として、ひたすら目立たないように暮らしていました。大晦日の深夜、宿直をしていたMに仕事が入ります。エイズで死んだ青年の死体を、市へ搬送する仕事でした。その死体は、鉱山の町でMが出会った子供の一人である光男だったのです。搬送を依頼したのは祐子を始めとした、Mのよく知っている関係者たちで、ピアニストの名前もありました。光男の亡骸を霊柩車に乗せ、Mは再び市を訪れます。祐子と二人で光男を火葬にした帰路、Mは市役所の爆破に遭遇しました。

警察は待っていたように、ピアニストと修太を指名手配しました。追われる二人を自首させるべく、Mは隠れ家に乗り込みます。しかし、組織を守るために、二人はMを虜囚にしてしまいます。市役所爆破事件でミスを犯した弥生と虜囚のMは、組織の私刑に呻吟します。山地の果てに造られた山岳アジトに移動した後も、無謀な私刑と軍事訓練が続きました。Mは過酷な毎日を弥生に庇護されて乗り切ります。十五歳も年下の弥生とMの間に、強い友愛の絆が結ばれました。

出口なしの状態に陥った組織は、閉塞状態を打開するために苦悶します。危機的な状況の中へ、ハイテクゲーム機メーカーの幹部社員のチハルを利用して、飛鳥という男がやってきました。飛鳥は、二十億円の現金強奪計画を組織に提示します。オシショウが真っ先に、この計画に飛び付きました。逡巡する、修太を始めとしたメンバーを押さえ、ピアニストが犯罪の実行を決断します。
ピアニストに愛情を抱いてしまった弥生は、積極的にピアニストを補佐する道を選び、Mも弥生に続くことを決心しました。二人は、飛鳥が提供した武器で真っ先に武装します。弥生とMが身を持って示した決意が、メンバー全員の志気を決定付けました。

銃撃と、爆破を交えた苦闘の末、四人の犠牲を払いながらも、組織は競艇場の売上金十五億円の奪取に成功します。逃げ遅れた弥生とM、ピアニストの三人を除いたメンバーは、海外へ逃亡するために市の文化センター・繭玉会館に集結します。
繭玉会館でメンバーの帰還を待っていたオシショウと飛鳥は、いとも簡単に組織を裏切ります。帰還したメンバーの大半が二人の手で毒殺され、修太は警察へ突き出す主謀者の候補として捕らわれてしまいました。
遅れて帰還したMと弥生も、オシショウの奸計に陥って捕まり、全裸で緊縛されてしまいます。
最後にやってきた、負傷したピアニストを、オシショウと飛鳥の銃口が狙いました。この危機を脱しようとして、Mが引き起こした拳銃の暴発で修太が死にます。なおもピアニストを狙うオシショウの銃口の前に、弥生が立ちはだかりました。弥生はピアニストへの愛に殉じ、背後からオシショウに射殺されます。

オシショウと飛鳥は、繭玉会館を爆破し、その混乱に乗じた逃亡を準備します。
Mとピアニストの絶体絶命の危機を救ったのは、司法担当の幹部をしていた極月でした。正面玄関で見張りに立っていた極月は、爆裂の音を聞きつけてホールに突入しました。一切を見て取った極月は、有無を言わせずオシショウを射殺します。
すべてが終わった繭玉会館の舞台に、Mとピアニストが無惨な格好で取り残されました。素っ裸で拘束されたMは、極月にピアニストとの性の介助を依頼します。弥生の死を悼んだMが、成長したピアニストに、初めて身体を開いたのです。

この事件に関係した十六人の中で、生き残っているのは、Mと睦月、極月、そして霜月の四人だけです。ピアニストも生き残りましたが、事件の全責任を取り、死刑囚となって自殺してしまいました。
多くの死と暴力に彩られた、この「物語」の中で僕の命も生まれたのです。避けては通れない道です。
プロフィール

アカマル

Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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