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4.クラブ・ペインクリニックの集い(6)

「セックスには、二つの側面があるのよ。一つは肉体の快楽を求めること。もう一つは想像力によって心の快楽を求めること。性欲に基づく肉体の快楽は言うまでもないけれど、人はすべてそれで満足しているわけではないの。性を求め合う者は、互いの官能を確かめながら極まりに向かうわ。肉体を借りて対話をしているようなものね。一人で快楽を求めるマスターベーションでも、想像力で性を夢想するでしょう。夢精も無意識が性夢を想像することで始まる。つまり、二つの側面のバランスが個性的なセックスを創り出すの。だから、人のセックスは千差万別とも言える。どれが正しいとか、悪いとかはない。セックスには、なんでもありなの。でも、傾向として分類することはできる。医学や心理学の仕事ね。そして、偏りが大きすぎる場合を異常というのよ。それだけのことだけれど、個人の社会生活には影響がある。異常なセックスは、性の現場に混乱をもたらすのよ」

「Mのセックスが異常だというのですか」
とっさに問い掛けていました。
元婦警の山形さんと同様、専門的なキャリアを持つナースがMを異常者扱いするのです。問いたださずにはいられませんでした。
ナースの口許に苦笑が浮かびます。
「結論を急いではだめよ。私は、Mが異常者とは言わない。それは医学が判断することよ。でも、さっき話したとおり、人のセックスには傾向がある。Mはセックスを社会的に捉える傾向があったわ。人が出会い、共感を持ち、理解し合う。また、反目し、争い、傷付け合う。それが日常の社会生活だわ。だれでも経験していることだけれど、それをセックスにまで持ち込む者は多くないの。Mはセックスで社会生活に参加することに快楽を感じたのよ。官能を日常に取り込み、快楽を見出せば、毎日がお祭りみたいでしょう。それは生き生きときらめいて見えるかも知れない。けれど、周りにいる者には迷惑になるの。その人たちが迷惑を自覚できない場合は、滑稽なことになるわ。ひたすら振り回されるしかなくなってしまう。混乱の極みよ」
「僕や祐子が、Mに振り回されているというのですね」
「今もって、希望の道に進めないという祐子は間違いないわね。進太も、行方不明になったMの足跡を追っているくらいだから、要注意よ。けれど、最初に断っておいたとおり、私はMと立場が違う。二十年も前の経験で話しているだけ。Mに振り回されているかどうかの判断は、進太や祐子が自分ですべきことよ」

ナースが断言しました。結論を出されてしまったようです。僕にはもう、反論するだけの資料も経験もありません。やはり現在の祐子と対決するしかないようです。最後に、ナースの経験話の根拠を尋ねてみました。
「ナースが、Mのセックスの傾向を断定したのは、いつのことなのですか」
「断定はしないわ。理解したのよ。バイクが自殺した後、サロン・ペインにMが殴り込んできたときよ。チーフまで巻き込んで、さんざん暴れ回ったわ。店を破損された後で、ようやく二人を取り押さえた。ママは怒り心頭に達して、Mとチーフを素っ裸にして縛り上げたの。クラブ・ペインクリニックの舞台の上に二人を吊り下げたわ。両手両足を一つにして吊り下げたから、尻の割れ目が剥き出しになった悲惨な姿よ。二つ並んだ尻を、ママと天田さんが鞭で打ったわ。乱暴者を懲らしめるという日常の場が、異常に偏ってしまったのね。Mは、その場を上手に捕まえた。チーフは、たわいもなく泣き出したけれど、Mは違った。目を閉じて歯を食いしばっていたわ。最初は、気丈に折檻を耐えているのかと思った。でも、なんとなく艶めかしいのよ。よく見ると股間が濡れていたわ。最後に、祐子が鞭で打ったときは歓喜の声を上げた。衆人環視の中で、日常を官能に変えてしまったのね。セックスを社会生活の武器にして戦っていたわ。Mの裸身を鞭打つ祐子は、感激して涙を流していた。あの場で覚めていたのは、私とピアニストと、祐子が連れてきたチハルという少女だけ。後は皆、Mが創造したセックスの世界に巻き込まれていた。祐子は、一番重傷だったと思う」

「なぜ祐子はMを鞭打ったのでしょう」
返ってくる答を予期した上で、あえて尋ねました。
「初めて身体を賭けて挑んだセックスを、Mにないがしろにされたからよ。Mも、そのことを認めていた。残念なのは、祐子がMのセックスの傾向に気付かず、温かく見守られていると錯覚したこと。その時点で祐子は、セックスを捨て去ってしまったのでしょう。Mを鞭打つことで、辛く苦しかった勇気ある戦いを癒してしまった。性が苦悩を癒すのでなく、苦悩が性を癒すと誤解したの。今までしてきたことが逆立ちしてしまったのよ。後はもう、Mに希望を繋ぐしかない。Mは勝ち誇って、最後の攻撃にでた。素っ裸で吊り下げられたまま排尿し、脱糞したのよ。さぞかし快楽の極みだったでしょうよ。チーフもMに倣って連帯した。祐子は、その醜態を感動して見つめていた。鼻を摘んで笑っていたチハルの感性が普通なのよ。あの場を逃げ出していったピアニストの気持ちがよく分かるわ。とんだ茶番ね」
忌々しそうに言って、ナースが口をつぐみました。
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Author:アカマル
http://prima-m.com/
官能のプリマ全10章
上記サイトにて公開中。

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